ポルシェの特別な存在│途方もないパワーを持つ917/30

Photography:Matthew Howell

1000bpsを超えるレーシングカーはいくつか存在する。しかし1200bpsという巨大なパワーを成功に結びつけたのは、ポルシェ917/30とそれを操ったマーク・ダナヒューだけだ。

生まれてこのかた抽選に当たったことなど一度もない私だから、1970年代の伝説的なポルシェ・レーシングカーでサーキットを走ることができるという招待状を受け取ったとき、飛び上がって喜ぶというよりは疑心暗鬼のほうが強かった。なにしろそのリストの中には、途方もないパワーを持つ917/30の名前があったのだから!

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熱心な読者ならご存知のように、917/30は
特別な存在である。極端にいえば何でもOKというCan-Amのユニークなレギュレーションが誕生せしめたこの車、ツインターボから1200bhpを発するそのモンスターぶりに、世界はどよめいたものだ。と同時に、その前年マシン917/10で痛い目に遭わされたライバルたちは、それこそ泣きっ面に蜂がやってきたごとくで、実際1973年シーズンが始まると、モンスターを前にひとたまりもなかった。オーガナイザーは自然吸気のアメリカンV8を使用する3分の1のチームがこのあとも大敗を喫するのを気づかって、74年はターボカーの燃料搭載量に制限を加えたのである。こうした保護政策はポルシェ以外のチームの劣勢を少しでも補おうというのが表向きの理由だったが、真の目的はポルシェを締め出すことだった。

こうして
ポルシェはCan-Amから去っていった。これはレースファンにとって失望以外の何物でもなく、観客の興味はおおいに削がれた。結局、74年のレースシリーズはCan-Am史上もっともつまらないものとなり、ついにはこの年限りでシリーズそのものが終焉を迎えることになる。


 
以来、ポルシェと917/30はずっとCan-Am
を死に追いやった張本人というレッテルを貼られてきた。もしポルシェが72年に917/10を、74年に917/30を他のチームに供給することをロジャー・ペンスキーが受け入れたとしても、ペンスキーと彼のドライバーであり優れたエンジニアでもあるマーク・ダナヒューはポルシェのCan-Am活動を支える原動力となっていたはずだ。それはポルシェのCan-Am初挑戦のときから車を走らせてきた唯一のチームであることを見れば疑う余地はない。
 
皮肉なことに、ここにご紹介するシャシーナ
ンバー917/30 005は、ポルシェの73年の成功にならって製作された、いわば二次的な車であることから、言われなき汚名を被った被害者ともいえる。73年の終わりにペンスキー・チームのリザーブカーとしてチームに委託され、74年シーズンへ向けての準備はすでに整っていたことになる。しかし直後にルールは改訂され、ポルシェはCan-Amから身を引くことを決断する。進められていた作業はすべて中止、005は製作途上のまま、ポルシェ・モータースポーツのガレージで惰眠をむさぼることになった。

だが79年、フロリダでポルシェ・ディーラーを営むと同時にポルシェ・レーシングカーの
コレクターでもあるジェリー・サターフィールドが話を聞きつけるに及んで、事態はにわかに動き出した。彼はその917/30を手に入れられないかとファクトリーにかけあったのである。両者は合意し、ポルシェのモータースポーツ開発部隊は79年夏から作業を再開、80年2月に005は5年の歳月を経てようやく完成に至ったのである。

文:オクタン日本版編集部、編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words:Richard Meaden 

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