ミスター・ビーンがマクラーレン F1とポルシェ カレラGTを乗り比べる

Photography: David Shepherd

ミスター・ビーンことイギリスの人気コメディアン/作家であるローワン・アトキンソンが、マクラーレンF1とポルシェ・カレラGTを乗り比べた。アトキンソンは自動車エンスージアストで知られ、マクラーレンF1を愛してやまないのだが、その判定やいかに。

私、ローワン・アトキンソンは、7年間にわたってマクラーレンF1を乗り回してきた。こいつが大好きなのだ。したがって客観的評価を下すには相応しい人間ではないことは間違いない。ひとりのマクラーレンF1オーナーとして立場でのこの稿を読んでいただければ幸いだ。
 
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今の時代、車好きと名乗ろうものなら、世間か
ら宇宙人扱いされる。そう、読者も筆者も宇宙人なのだ。もし車好きの惑星があるとすれば、"ポルシェ大陸"が最大面積を占めている。そしてポルシェ大陸に住まう人間は、"空冷地区"と"水冷地区"に分かれて暮らしている。専有面積こそ狭いが、着々と領土拡大を図っているものとして"ランボルギーニ大陸"や"ロータス大陸"などもある。"フェラーリ大陸"にはエンスージアストが多く住むが、いささか孤立気味で、ほかの大陸への移動など考えもしない鎖国主義がまかり通っている傾向にある。
 
そんな惑星のなか、筆者は"マクラーレン島"
という小さくも平和的な場所に住んでいる。決して排他的ではなく、他民族への理解と許容がある島民のつもりだ。なかでも"ドライバーズカー"であることをイデオロギーとするポルシェ大陸とは似通う部分があり、シンパシーを抱いている。昨今、多くのエキゾチック大陸が運転する楽しみを追求するよりも、"見せびらかす"ことに重きを置いているように感じる。つまり車の購入を通して、いかに彼らが経済的成功をおさめてきたかを証明するツールと化していると、私は分析している。よって、必然的に車が肥大化する。
 
今回のテストコースとなったグッドウッドのピッ
トレーンに並ぶマクラーレンF1(以下、F1)、ポルシェ・カレラGTを目の当たりにすれば、いかに車の肥大化が馬鹿げているか分かる。世界で最もエキサイティングな車でありながら、そのコンパクトぶりは注目に値するポイントだ。よく世間ではいかにF1がコンパクトか語られるが、カレラGTも"現代"の車にしては小さい。
 
F1がデリバリーを開始したのは1993 年のこ
とだ。オーナーにはF1のシャシーナンバーが刻まれたタグホイヤー製腕時計が配られた。彼らはマクラーレンF1チームのスポンサーであったし、マクラーレンのロン・デニスCEOが大株主だったことも深く関係しているのだろう。そのほか、F1には成人男性の腰の高さくらいまでありそうな立派なツールボックス、そしてセンターシートに選んだ色とお揃いの本革鞄も届けられた。ピンクのセンターシートを選べばピンクの鞄が届けられたのかと思いを馳せることもある。

個人的な意見ではあるが、カレラGTが登場するまでライバルと呼ぶに相応しかった車はパガーニ・ゾンダくらいだったと思う。そう言ったものの、私は自分でパガーニのステアリングを握ったわけではなく、マクラーレンと深いつながりがあるレーシングドライバー、アンディ・ウォーレスの運転を助手席で味わったに過ぎない。



アンディは1990年代にマクラーレンF1 GTRでレースに参戦したこともある。また、1998年にVWのプルービングであるエーラレッシェンにて240.1mph(384.2 ㎞ /h)という市販車世界最速記録を樹立したのも彼だ。その時、彼は普通のパンツとシャツ姿にヘルメットを被ったくらいで市販車世界最速記録を樹立した。エンジンのレブリミッターこそ外されていたが、それ以外はノーマルのままだった。一度、私がレースに出走する際、タイヤの空気圧をどうするか迷って、マクラーレン本社に問い合わせたことがある。

「エーラレッシェンでもタイヤの空気圧はノーマルのままでしたよ」という言葉を聞き、「エーラレッシェンでノーマルだったら、何もしなくていいや」と安堵感を覚えたものだ。アンディの話で最も命知らずなエピソードは、65名のF1オーナーを招いての時速200mph(320㎞/h)体感会だろう。どれほどの運転技術を持つのか分からぬオーナーたちがステアリングを握るF1に同乗したのだから、メダルを与えるか、閉鎖病棟を用意すべきだっただろう。

編集翻訳:古賀 貴司 Transcreation: Takashi KOGA Words: Rowan Atkinson 

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