ミスター・ビーンがマクラーレン F1とポルシェ カレラGTを乗り比べる

Photography: David Shepherd



F1の運転席から見渡す風景は、まるで"世界の中心"に座っているかのようだ。まぁ、物理的に車の真ん中に座っていることもあるし、各種操作ボタンも左右対称に配置されている。シンプルなコクピットには整然とした雰囲気のなかにもエレガンスさを感じるものの、さすがに"古さ"は否めない。パワーステアリング、ブレーキサーボ、ABS、トラクションコントロール、スタビリティコントロールなどはいずれもF1デビュー時に存在したものだが、設計者のゴードン・マーレーはいずれもF1への搭載を見送った。さすがにABSくらいは装備してくれていてもよかったかなと、何度かの事故を経験して思う。緊急時のブレーキングでABSのようなポンピングブレーキを冷静に行える人間などいない。

一方、カレラGTには前述の装備がすべて採用されている。車重が増加するとはいえ、速く走らせるためには必要不可欠だ。パワーにたとえると、タイヤ空気圧モニター、外気温度計、カーナビゲーションだけでも50psの損失に相当すると個人的に思っているほどだ。

カレラGTのほうがユーザーフレンドリーであるという意見に異論はない。カレラGTのギアシフトはF1よりも遥かに軽くスムーズだ。ステアリング操作もパワーアシストのあるカレラGTは本当に楽だ。F1はコーナリング中でさえステアリングが重く、ジオメトリーのセッティングがステアリングフィールへの悪影響の原因ではないかと疑っている。マクラーレンは当初、F1を300台生産するつもりで、当時の新車時価格は63万4500ポンド(約1億円)としていた。だが、1990年代初頭には不景気の波が吹き荒れていた。1995年のル・マン優勝、1995年と1996年におけるFIA GT選手権でのチャンピオンシップ獲得など、車両やパーツ供給で赤字には陥らなかったはずだが、いわゆるマイナーチェンジの類は行われず、"ステアリング問題"は放置されたと私は踏んでいる。



カレラGTはカーボンクラッチを採用し、「軽量で小型…」と美辞麗句が並べられるが、私はかなりナーバスに感じた。慣れが必要と言いたいところだが、丸一日カレラGTと過ごしてみても慣れることはなかった。とにかく、ゆっくり、ゆっくりクラッチミートさせないとストールしてしまう。また、驚いたのはクラッチペダルの重さで、F1のほうが軽く、クラッチ操作やフィールもF1のほうが自然で正確さが感じられる。だが、クラッチは3000マイル(4800 ㎞)ごとに交換しなければならない。

両車ともに驚かされるのは、高速域のみならず低速域で走らせても気持ちがよいことだ。エンジンや足回りの精緻な動きが伝わってくる。ただカレラGTの場合には2500rpm以下と4500rpm付近でギアボックスからカラカラと異音がする。F1ではアイドリング中に聞こえる程度だ。この手のトランスミッションではやむを得ないのだろう。もっとも、カレラGTはアクセルペダルをグンと踏み込めば、エグゾースト音しか聞こえなくなる。

計測こそしていないがカレラGTの加速は強烈だ。エンジンフィールの軽さ、レースエンジンらしさは素晴らしい。個人的には、特にエンジンを止めたときの感覚が、まるでF1マシンのようにストンっと息途絶える雰囲気がたまらない。

1速、2速の加速ではカレラGTもF1も同等の体感加速だが、3速以降はF1に軍配があがる。正直なところこれには驚いた。ピットで待機していた取材班の目にも明らかだったようだ。いくらF1が好きとはいえ、絶対性能では新しいカレラGTが若干F1に勝ると予想していた。

編集翻訳:古賀 貴司 Transcreation: Takashi KOGA Words: Rowan Atkinson 

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