ミスター・ビーンがマクラーレン F1とポルシェ カレラGTを乗り比べる

Photography: David Shepherd



また、カレラGTのエグゾースト音が単一音色なのに対して、F1はもっと官能的に聞こえる。最初は"ウォーー"、次に"ウィーー"、そして"ウゥーー"となり、レッドラインに近づくにつれ"ウァーー"と音色が変化する。F1のV12エンジンは機械というよりも、なにかの生命体であるようにさえ感じる瞬間かもしれない。BMWのパウル・ロッシュが率いるチームが手掛けたマクラーレンの6リッターV12 エンジンは、まさに王冠を飾る宝石のようなものだ。

グッドウッドのコースは思いのほか凸凹があって独特だ。まず全開走行したのはカレラGTだ。当初、カレラGTのターンインにおける安定性、コーナリング中のボディロールの少なさ、そして強烈な制動力をもたらすセラミックブレーキに感心させられ続けていた。しかし、徐々にスピードを上げ、車両のコーナリング性能の限界近辺(に近いたと思われる)では、とてもナーバスな挙動を感じ取った。もちろん、グリップ力は高く、安全性を考慮してアンダーステア傾向にセッティングされているのは間違いない。しかし、リアの足回りが硬すぎるのか路面の凹凸に過敏に反応する素振りをみせ、いざリアの挙動が乱れたら制御が難しそうな雰囲気がある。

対するF1はリラックスしてコースに挑むことができる。パワーウェイトレシオはカレラGTをも上回り、スタビリティコントロールもトラクションコントロールもない。サーキットを走るのはカレラGTよりも難しそう思える。しかし、カレラGTよりもしなやかな足回り、カレラGTよりも分厚いタイヤがもたらす挙動は素直でわかりやすい。カレラGTのほうがグリップ力は高いだろうし、技量のある人が運転すればF1よりも速いラップタイムを刻むかもしれない。だが、ドライバーとして楽しめるのは間違いなくF1のほうだ。F1は公道が楽しく、比較的新しいカレラGTはサーキット走行が得意だと予想していたが、結果はまったく逆だった。ちなみにF1はドライバーズシートが中央に位置するため、公道での追い越しは難しい。



ウルトラスポーツカーの2台を乗り比べて何がしかの結論を述べるのが筋だろう。カレラGTを手放しで褒め称えない筆者と同意しない読者もいることだろう。しかし、考えてみればカレラGTはあくまでもポルシェにとって"商品"としての側面が色濃く出ている。つまり、たっぷりの電子制御を搭載し、主にアメリカをターゲットに1500台の生産が見込まれた車である。

今の貨幣価値でF1を販売しようものなら100万ポンド(約2億円)はくだらないと思う。その点、カレラGTはおよそ30万ポンド(約6000万円)である。スペシャルな車であるなかにも、コストパフォーマンスが考慮されていたのだ。

カレラGTがエポックメイキングな車であったのは紛れもない事実だ。ただ、"F1ほどではなかった"ということだけのことだ。

編集翻訳:古賀 貴司 Transcreation: Takashi KOGA Words: Rowan Atkinson 

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