ポルシェ911エンジンの父│伝説のエンジニア、ハンス・メツガーが果たした役割

Photographs:Porsche



ターボチャージャーはポルシェの生産モデルや耐久レースにおける新しい扉をポルシェに開いた。そして1980年代初頭には、F1のレギュレーションもまた過給機エンジンにとって有利な方向へと傾いた。マクラーレンのロン・デニスがポルシェにアプローチするまでにはそう時間がかからなかった。デニスは新しい1.5リッターツインターボV6に関する詳細設計の研究に資金を提供することに同意する一方、すべての開発における支援も工面できるよう奔走した。ポルシェではメツガーが責任者となった。このふたりの男の間には確かな信頼関係が存在していた。
 
「最初に会った時からロン・デニスには非常にいい印象を受けました。多くの人が彼とは馬が合わないというのを聞きましたが、私は彼が100%信頼のおける男だと感じました。書面にしなくても、何かをしようと二人で同意すれば、彼はそれを実行すると信じることができるのです。彼が常にすべてに完璧を求める姿は、フェルディナント・ピエヒに匹敵するでしょう。二人はとても似ていました」
 
「ロンはF1についてすべてを知っていましたし、ジョン(バーナード、後にマクラーレンのトップエンジニア)はその車に必要なものをすべてわかっていました。私たちがマクラーレンと組んでF1に参戦すると発表した時、批評家たちが『なるほど。ポルシェは長距離には強かったが、F1はまったく別物だ』と言ったのを覚えています。しかしその後私たちは、最も軽く、最もコンパクトで、最も効率的なエンジンを開発しました。1984年のそのエンジンは最もパワフルで、1987年に至るまで毎年そのパワーを増していきました」
 
一方、デニスはマクラーレンとその新しいエンジンに関わることによるメリットについてマンスール・オジェを説得することに成功した。"TAGターボ"(オジェの率いるTechniques d’Avant Gardeに因んで名づけられた)」はマクラーレンを世界ドライバーズチャンピオンシップ3連勝(ニキ・ラウダ/アラン・プロスト)、そして2度のコンストラクターズチャンピオン獲得へと導いた。


 
「F1はスポーツカーに携わった後の私にとってまったく異なる体験でした。当時、マクラーレンで働いていた古い友人に会うと、現在は当時とはまったく違う環境だといいます。私は数年前にリタイアしたジョー・ラミレスがまだマクラーレンにいた頃、ホッケンハイムで毎年彼に会っていました。彼は会うたびにあの頃の方がどんなに楽しかったかといっていましたね。たくさん話をして、勝利を得たときは皆で存分に祝いましたよ」
 
「F1レースの後に行われるパーティーもよかったのですが、長距離レースに勝った後、特にル・マンで勝利を得た後のポルシェでのパーティーは本当に楽しいものでした。私たちはいつもトゥロシェにある馴染みの店に行きましたが、それまでの48時間はほとんど眠っていない、あるいはろくに休憩をしていない後のことでした。勝った時はみんな嬉しくてしかたなく、大いにワインを開けて祝ったものです。メカニックはとても疲れていましたから、そこで眠ってしまうなんてこともよくありましたね」
 
TAGターボエンジンはグランプリレースで25のタイトルを獲得し、今もなおF1史上において最も成功を収めたエンジンのひとつとしてその名を残している。ポルシェ917は史上最も優れたレーシングカーとして多くの人に愛され、911の水平対向6気筒エンジンは史上最も耐久性のあるスポーツカーエンジンといっても過言ではない。ハンス・メツガーがいなければ、どれも存在しなかったのである。

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.)  Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:渡辺 千香子(CK Transcreations Ltd.)  Translation:Chikako WATANABE (CK Transcreations Ltd.) Words:Peter Morgan 

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