グループCの絶対的存在 ポルシェ962ドライバーが語ることとは?

Photography:John Colley


 
ワッティのスポーツカーレースへの復帰は、このあと80年代中頃まで長いこと待たなければならない。その頃、耐久レースといえども、急激に高速化への道を歩んでいた時代である。そこで私はこういう質問を投げかけた。80年代中頃といえば彼はシングルシーターにどっぷりと浸かっていた時期だが、それとグループCカーとではどれだけ速さに違いがあったのだろうか。彼から返ってきた予想もしない答えは私の興味をそそった。

「うん、誰もこれについてはわからないと思う。両方の分野でトップマシンに乗っていたドライバーはほとんどいなかったからね。でも、私はまだF1でマクラーレンに乗っているときに、956を一度だが実際にドライブしたことがあるんだよ。場所はヴァイスアッハ、そうポルシェのファクトリーがあるところで、そこのテストコースでだよ。ポルシェがターボ付きの1.5リッターV6エンジンをマクラーレンのために作っていたのは知っていると思うけれど、そのF1用TAGエンジンがまだ開発段階にあった頃だね。もうそろそろ最終段階という頃、私はヴァイスアッハに飛んだ。たしか1983年の8月だったと思うけれど、ロン・デニスやジョン・バーナードよりも先に行ったんだが、そこで見たのは開発用の956だったんだ。それはある目的を遂行するために各所が継ぎ接ぎだらけになったボロ車なんだが、なんとTAGターボエンジンが載っていたんだよ」

「そこにはマクラーレンのシャシーはまだなかったけれど、ポルシェとしてはエンジンのマイレッジを稼がないといけない。そこで956を使って走り込みをしていたんだね。彼らは自分たちの作ったエンジンがこれでよいのかどうか知りたかったらしい。だからまず走らせたかったんだね。だけどこのエンジンの事実上のオーナーであるマクラーレンには、どのようにしてデータを得たかはけっしてマクラーレンには話さなかったんだ。だからロンが自分たちのオーダーしたエンジンが956に搭載されているを見たときは、そりゃあもう大変な騒ぎだったよ。いま思い出すと笑っちゃうけど、あれはその後も議論のネタとなる瞬間だったんだ」
 
TAGターボのF1エンジンを積んだ956など、本当にあったのだろうか? そんな機密事項に属するような話はもちろん聞いたこともないし、ジョン・ワトソンが実際にドライブしたというのも初耳だ。そのあたりに注意して再度尋ねてみた。それは乗ってどんな感じだったんですか?

「うん、そのときは比較できるようなものがなかったからあまりよく覚えていないな。むしろ私の興味を引いたのは、956にTAG-ポルシェ・エンジンが載っているという事実そのもので、そっちのほうが印象的だったよ。しかし、マクラーレンF1で最初にそれを走らせたとき、あまりにターボラグが大きいので恐ろしい思いをしたよ。搭載のしかたはまったく同じだったね。もっともスポーツカーのほうがまわりにゆとりがあったけれどね。とにかくターボラグは何か手を打たなければいけないとずっと思っていたよ」

翌1984年、ワッティはその年のル・マンでグループ44チームからジャガーでエントリーしたが、ジャガーにとってもまだ実験的な試みにすぎないもので、テストを含めた彼の活動の舞台は1年を通じてポルシェだった。

「私が最初に962をドライブしたのは1984年の春にポールリカールでシェイクダウンに参加したときだよ。私はそれまで長いストレートのあるサーキットで高性能なスポーツカーをドライブしたことは何年もなかったから、フラットシックス・エンジンが放つ大きなうなり声とトルクの大きさは衝撃的だったし、とても印象的だった」
 
初期の962はアメリカのIMSAの規定に合わせるべく、2.8リッター・エンジンにKKK製のシングルターボを組み合わせていたが、ワッティが乗ったテストカーは、ワークスの956から移植した2649㏄のツインターボを載せた、はるかにパワフルな車だった。

ワッティはこう付け加えた。「スポーツカーがF1より重いのは知ってるだろうけれど、挙動レスポンスはそれ相応にスローだし、ドライブするのに必要な体力もF1以上のものが求められたんだよ。たとえばステアリングを回すにはF1より力を込めなければならないので、腕に力が入るようにステアリングホイールに近いポジションをとらないといけなかった。速さについてだけど、ポールリカールで初めて乗ったときのことを思い出したよ。あの長いストレートで『なんてこった。とんでもなく速いじゃないか!』と思わず叫んでしまったのをね。直線だけじゃなくコーナーでも速かった。扱いに一度慣れてしまえばとてもバランスがとれた車になるんだが、その秘密は何だと思う? 固定式デフなんだ。ロックアップさせると本当に走りやすくなって、ポルシェならではと思わせる素晴らしい走りを可能にしてくれたものだよ」

編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words:Tony Dron 

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事