グループCの絶対的存在 ポルシェ962ドライバーが語ることとは?

Photography:John Colley


 
ワッティがル・マンを完走したのは、1990年にリチャード・ロイド・レーシングの962Cで出場したときの一度だけ。ミュルザンヌのストレートにシケインが設けられた、あの年である。

「あのシケインができたことでレースのキャラクターが変わってしまったね。最高速が以前とくらべて20mph(約32㎞/h)下がった。数字だけ見ればわずかな速度低下だよね。でもル・マンはこれで24時間かけて走るスプリントレースになってしまった。最速の車はショートテールの短距離用の車だったんだ。1970年代の初めから親しい友人になったリチャードは4月の時点でこれに気づいて対処していたね」

「彼のチームの962は特別に仕立てたものだが、仕様上特別変わったところはなく、ただ新しいというだけのカスタマー向けモデルで、まあ分類するとしたら、ル・マンに出るときはこれじゃなきゃだめだ、とされたロングテールモデルだった。乗り始めはストレートでとっちらかるような走りしかできなかったが、その後ストレートに重点を置いたスプリング設定に変えてレースを走ったらまずまず真っ直ぐ走るようになったし、快適にドライブできたよ。にもかかわらず、優勝はできなかった。簡単にいえば、勝つためのペースがなかったということだが、詳しくいえば、われわれは単純に最後まで走りきれることを目標とする、伝統的な耐久レースのつもりで走ったのが敗因だね」

「夜ドライブしているとき雨が降ってきた。履いていたのはグッドイヤーだったんだが、このタイヤ、雨だとナーバスになって車の動きが予測つかなくなってきた。たぶん雨でタイヤが冷えたのが原因のようで、夜が明け太陽が昇って路面が暖かくなったらハンドリングもよくなってきたよ。これは車自体に起きた問題ではなく、深夜に降った雨がもたらした問題だとわかった。だから、そのあとは安心してドライブできたね。総合的、かつ冷静に判断する力もル・マンでは必要なんだ」
 
グループC時代を振り返って、心に残る思い出はほかになかった?「忘れられないことがひとつある。それはスポーツカーは雨が降ってくると、コクピットに水が入りやすいということだ。それは本当に不快なもので、962でも例外ではないんだよ。もっとシリアスなものもある。962は弱点のない車なんだけれども、他の車がより剛性の高いカーボンファイバーを構造材に採用しはじめても、ポルシェはアルミニウム・シャシーに固執したがるんだね。


 
同じようにポルシェのフラットシックス・エンジンは素晴らしいんだけれど、横幅がありすぎるというのが問題視される時期がやがて来る。広い横幅がグラウンドエフェクトの妨げになるんだね。横に広いエンジンは新時代の空力設計にはまったく適合しなかったんだ。こうした憂慮すべき事態は、シケインができたあとでもル・マンではさほど大きな問題にはならなかったが、ほかのサーキットだとけっこうシリアスだったんだよ」

「ポルシェがどこよりもル・マンに照準を合わせていた頃、彼らにはジャガーやメルセデスといったライバルに対して絶対に勝たなければならない使命感みたいなものがあったんだが、次第に自分たちの伝統的なフラットシックス・エンジンがライバルたちのV6やV8やV12に対して空力面で不利になりつつあることがわかってきたんだ。962は長期間にわたって成功を築いてきたけれど、あまりに長いことフラットシックスにこだわりすぎたことが、ポルシェを弱体化に追いやった理由なんじゃないかな」

編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words:Tony Dron 

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