デレック・ベルがもっとも成功したポルシェ・レーシングカー 956を語る

Photography:Andy Morgan

レースでの活躍を抜きにしてポルシェの成功は語れない。 中でも956はもっとも成功したポルシェ・レーシングカーのひとつといえるだろう。 そのレジェンドといわれるゆえんを デレック・ベルの言葉を織り交ぜながら語っていこう。

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ポルシェのモータースポーでの驚異的な活躍を語るとき、まず第一に挙げなければならないのが956だろう。1982年にFIAが全面的に書き換えた世界耐久選手権レースのレギュレーションはポルシェのために作られたといわれたほど、956にはすべての改訂事項が網羅されていた。それはデレック・ベルにとっても好都合なものだった。「956は紛れもなく私の人生を豊かなものにしてくれた」 5回もル・マンで栄冠を勝ち取ったその男は、この記事の撮影のあとでこう語ってくれた。

ポルシェは1970年代の後半、ことごとく国際的なスポーツカーレースを牛耳ってきた。しかしグループ5で935が、グループ6で936が、それぞれ独壇場だったカテゴリーが、1981年終わりのある日、一夜にしてグループA、B、及びグループCに取って代わられ、過去のものとされたのである。グループAとBは街を走る量産車であることが求められたが、グループCはエンジンのパワーを制限するために搭載する燃料の量をいくらに抑えるか、大いなる論争を経てようやく規格が決められたプロトタイプだ。いくつかのメイクはこれによってポルシェの支配力は弱まると読んだが、一部にはそうした推測とはまったく逆に、ポルシェにとっては力をさらに押し上げるよいチャンスになるのではないかという見方もあった。 

956はターボチャージャーやアルミニウム製水平対向6気筒エンジンなどを別にすれば、ポルシェにとって10年ぶりにまったく新しく起こしたレーシングカーで、部分的には60年代後期に逆戻りした内容の936からすれば飛躍的に進歩した車である。アルミニウム・モノコックを採用せず、フロントとリアには依然サブフレームを持っていた936に対し、956はようやくモノコックを採用し、多くのライバルと肩を並べたのである。では特徴は何かといえば、細かくいえばキリがないが、空力にはとくに力を注いだと当時のポルシェはアナウンスしていた。リアのダブルウィッシュボーン・サスペンションのコイル/ダンパーユニットはギアボックスの頂部にマウントされるが、これはサスペンションまわりの空気をスムーズに流すための設計。ポルシェはまずグラウンドエフェクト最優先の設計思想で優位に立とうと考えていたのである。



新しく策定されたグループCカーにはグラウンドエフェクトは許されていたものの、その効果が極端にならないよう前後ホイールの間のボディ底面は完全にフラットであることがレギュレーションで規定されていた。しかしその規定は後者軸より後ろの部分には及んでいなかったので、ポルシェはリアセクションを大きなエアトンネル形状としたのである。それは後ろにいくに従って急勾配にカーブを描き、そのためにわずかではあるが後方を持ち上げられたフラットシックス・エンジンと5段ギアボックスの横を通って空気は排出されていった。強くて軽いケブラー強化プラスチックボディと相まって、917の3倍以上のダウンフォースを生んだ956は、こうしてポルシェで初めて真のグラウンドエフェクト・カーとなったのである。
 

編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words:David Vivian 

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