レーシングモデルにインスパイアされて誕生したGT8 ヴァンテージのパフォーマンスは?

Photography:Andy Morgan



軽量化が功を奏しているおかげでスタートの瞬間からスタンダード版ヴァンテージより鋭さを増していることは体感できるが、やはり本領発揮となるのは回転計の針が5000rpmを越えたその先だ。理想をいえば、そこからリミッターを打つ7500rpmまでの2500rpmの範囲に収めておきたい。そこが最も鋭く、パワー感も強く、美味しい領域なのだ。ごく一般的なドライバーならちょっとした怖さを感じるほどの、そしてスポーツドライビングが好きな人にとっては充分に楽しめるほどの速さを味わわせてくれることは間違いない。
 
けれど、少し乱暴な言い方にはなるが、V12エンジンほどの低中回転域でのトルクは望めない。あるいは直線を飛ばすことのみに快感を覚える人には、GT8は物足りなさを感じさせることになるかも知れない。ポルシェ911 GT3や、ターボ搭載のフェラーリ488、マクラーレンの650Sなどと較べてしまうと、パワーやトルクでは太刀打ちできない。それらに対抗するには、GT12を持ってくる必要がある。

けれど、コーナーで知的な満足感を味わいたい人にとって、ヴァンテージGT8ほど大きな喜びを感じられる車などそうはない。GT12とGT8は、似て非なる車といっていい。GT12の魅力がどちらかといえばV12エンジンのパワーと芳醇なフィールにあるとするなら、GT8の肝はなんといっても運動性能そのものにある。

それはそもそもV8ヴァンテージとV12ヴァンテージからしてまったく同じで、車重の違いもさることながら、重量配分も大きく貢献している。たしかに車体がコンパクトなヴァンテージのエンジンベイにV型12気筒を押し込むのは魅力的なコンセプトなのだが、フロントアクスルに余計な重量がかかるという難点がある。



対してV8モデルはフロントアクスルの後方にエンジンを綺麗に収められるフロントミドシップレイアウトであるため、V12モデルには望めない自然なフィールとレスポンスの鋭さを得ることができる。GT12もフロントに重いV12を積んでいることが時として信じられなくなるくらい身軽に、気持ちよく曲がってくれるよう調教されてはいるが、最初からV8エンジンの搭載を前提に設計・開発がなされたのがヴァンテージだ。ギリギリのところでは無理が出る。ところがオリジンのよさを磨きに磨いたようなGT8には、そんな無理は一切感じられない。コーナリングの素早さと素直さ、そしてそのときのフィールの気持ちよさは、段違いといっていいレベルにある。
 
タイヤの適切なグリップと力強いトラクション。おおよそどの速度域でも無用なアンダーステアというものを感じさせることはなく、フロントは信じられないほどの食いつきを見せるが、リアの反応も抜群によく、極めてつり合いのとれたグリップを即座に発生させるから、変に不安定になったり気まぐれな動きをしたりすることがない。そしてステアリングやシートを通じて、ドライバーに途切れることなく適切な情報を伝えてくる。ステアリングもよくできていて、反応が素晴らしいのに神経質なところが全くないから、直感的にズバッと適切な角度まで切ることができ、その後で修正を加える必要もない。

編集翻訳:嶋田智之 Transcreation:Tomoyuki SHIMADA 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Richard Meaden 

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