8台のポルシェ911とともにその半世紀におよぶ歴史を振り返る旅

Photography:Andy Morgan


 
996の国際発表会に参加したことはいまもよく覚えている。このモデルで、911は大きな変貌を遂げた。空冷から水冷への転換、ペダルはそれまでのオルガン式から吊り下げ式となり、インテリアも大幅に見直された。"フライドエッグ" のあだ名で呼ばれたヘッドライトが不評をかこったことはあまりにも有名だ。この時代、911は個性を失い、現代的なテクノロジーを導入することでコスト削減を図ろうとしていた。それらは、彼らの財務状況を強化するために必要不可欠な措置だった。
 
テストした車両はオドメーターが10万マイル(約16万km)を越えていた。そのことは、外観にはあまり表れていないが、インテリアを見れば一目瞭然。スイッチ類はずいぶん傷んでいるし、プラスチック類はツルツルに磨き上げられてしまっている。けれども、そんなことで996を中傷するのはバカげている。なにしろ、まるでカミソリのように走りはシャープなのだから。軽量なうえに、操舵したときの繊細な感覚、そしてノーズの入り方には驚かされるに違いない。
 
3.4リッターエンジンの歌声はかなり個性的だ。悲しげな遠吠えにも聞こえるが、力強い響きも込められている。296bhpのパワーからは、997ほどのパンチは感じられないものの、シフトレバーの動きは滑らかでありながらしっとりとした重さを伝えるもので、後継モデルよりずっと高級感がある。
 
ここ何年も996を手に入れようとして売買広告をチェックしてきたボヴィンドンは、案の定、惚れ込んでしまったようだ。「996こそはもっとも論争の的になったモデルで、私もそのことは気にかけていた。ただし、歴史はどこかで書き換えられてしまったようだ。996のことを、名作993と名作997の間に挟まれた駄作のように評する向きがあるが、私は素晴らしい車だと思う。反応はとても正確で、素早くドライブできる。最新モデルに比べればメカニカル・グリップは低いし、エンジンだってちょっと見劣りする。けれども、ドライバーにはしっかりとフィールを伝えてくれる。特にステアリング・フィールは、今日集めたどのモデルにも負けないくらい良好だ。プラスチックのクォリティはアウディに及ばないが、それでも私は996が欲しい」

編集翻訳:大谷 達也  Transcreation: Tatsuya OTANI Words:John Simister 

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