8台のポルシェ911とともにその半世紀におよぶ歴史を振り返る旅

Photography:Andy Morgan


 
996同様、964もあまり高く評価されることのないモデルだ。でも、どうして? 私にもはっきりしたことはわからないが、その外観が理由でないことだけは明らかだ。ギュッと引き締まったコンパクトな外観は、911本来の姿だといえる。なるほど、フロントバンパーはいささか重そうに見えるが、リア周りはスリムで、直立したウィンドウスクリーンや丸いヘッドライトは時代を超えて輝いて見える。
 
まるで履き慣れたブーツのような印象だが、防弾車のごときボディ剛性の高さはある時代のドイツ車にしか感じられない種類のものだ。作りの部分で簡素に思えるところもあるけれど、必要な機能は完全に持ち合わせていると断言できる。
 
エンジンの最高出力は250bhpにも満たないが、スペックシートに綴られたデータから964の優れたポテンシャルを説明するのは難しい。動力性能は文字どおり目が覚めるようで、トルクの豊かさ、そして金属的な響きのエンジン音には本当に心を奪われる。特にこのサウンドは、数多ある自動車のなかで、もっとも美しいもののひとつであると個人的には思っている。
 
パワーステアリングのフィーリングはシャープで、やや重めで、993よりも正確だ。このステアリングはとにかく"話し好き" で、前後アクスルの状態を細大漏らさず伝えてくれる。そのためには様々なノイズのなかから大事な情報だけを拾い上げられるようにならなければいけないが、数マイルも走れば十分なはず。ドライバーの操作に対して車がどうレスポンスするかという面では、993よりも強固で明確な関係を示す。グリップレベルは十分に高いが、ハンドリングのバランスはうっとりするくらい素晴らしいものだ。
 
リアエンジンというレイアウトを採用していることは強く意識させられるが、それでも、パワーステアリングのおかげもあって、この車を操るのは実に楽しい。個人的に所有している964 RSはノンアシストで操舵力が極端に重いので、こちらのほうがずっと思いのままに操れると感じたくらいだ。
 
ボヴィンドンもこれが特別なモデルであることに気づいたようだ。「エンジン・サウンドは最高だし、レスポンスも申し分ない。トルクの分厚さでは964 RSに負けていないし、パワーステアリングのおかげで、弱アンダーステアからオーバーステアに転じる際にもはるかに操りやすい。そのいっぽうで、最新の911にも通じる強力で信頼のおけるブレーキ、ストロークは長めながら感触は良好なギアボックスも備えている。コンパクトなボディのおかげでハンドリングは俊敏だけど、バランスがいいので、コントロールしやすいという長所も兼ね備えている」

編集翻訳:大谷 達也  Transcreation: Tatsuya OTANI Words:John Simister 

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