8台のポルシェ911とともにその半世紀におよぶ歴史を振り返る旅

Photography:Andy Morgan


 
目映いばかりの輝きを放つミネルヴァブルーのボディカラーとタンのインテリア、そしてクッキー・カッターのアロイホイールを装着した3.0SCは、70年代後半を象徴する1台だ。しかもたいていはタルガで、クーペを見かけることは本当に珍しい。おまけに、ご覧のとおり新車同様のコンディションである。ひと目見ただけで、私は惚れ込んでしまった。
 
このSCはある意味で911の端境期に作られたものといえる。70年代前半の、より可愛いらしくてあまり目にすることのないモデルと、80年代に入ってホエール・テールを得た3.2カレラとのちょうど境目に位置しており、あまり日の目を見る機会はない。したがって、それほど強い期待を抱いて乗ったわけではないが、キャメル・カラーのドライバーズシートに腰を下ろしたとき、私は言葉を失った。
 
3.0リッターエンジンは、後の3.2リッターよりも少しだけ高回転を好む味付けのため、パワーの差(185bhp対228bhp)はほとんど気にならない。ステアリングはノンパワーだが、操舵力が軽いうえに生き生きとした反応を示すので、これがSCのドライビング・スタイルを大きく特徴づけている。915と呼ばれるギアボックスのフィーリングは上々だが、シフトストロークは後に登場したものに比べるとやや長め。それでもていねいに扱ってあげれば、いつでも絶妙なフィーリングとともに各ポジションに収まる。
 
メカニカル・グリップのレベルは決して高くないが、このおかげもあってSCは操りやすく、限界付近でも神経質な挙動は見せない。3.2に比べればコーナリングスピードは低いものの、これがかえってドライビングの楽しさを生み出していることは疑う余地がない。ブレーキは、964以降のモデルに比べてやや心許ないかもしれないが、それでもSCのパフォーマンスをコントロールするには十分だ。飛ばしたときのフィーリングは爽快そのもの、ただしそれほどスピードを出さなくても楽しめるのがSCの特徴といえる。
 
SCに心を奪われたのは、どうやらボヴィンドンも同様だったらしい。「このバランスはたまらないね。基本は弱アンダーステアだけれど、オーバーステアを引き出すのは難しくない。高回転を好むエンジンも、流れるようにストロークするダンパーも素晴らしいのひとこと。915ギアボックスのフィーリングはやや乏しいものの、正確に操作できることは間違いない。このままの状態でまったく文句のない仕上がりだ」

編集翻訳:大谷 達也  Transcreation: Tatsuya OTANI Words:John Simister 

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