8台のポルシェ911とともにその半世紀におよぶ歴史を振り返る旅

Photography:Andy Morgan


 
厳密にいうと、911の歴史はこのモデルから始まったわけではない。ただし、1969年モデルの2.2Tは、私がこれまで操った911のなかではもっとも古い1台だ。この車はとにかく美しい。ボディの曲線は優雅でいながら控えめ。タイヤは細く、排気量の小さなフラットシックスはやや耳障りな音を奏でる。991と比べると、2台が同じ遺伝子を受け継いでいることが信じられないほどだ。


 
それでも、両者には確実に共通点がある。Tにもパワーステアリングは取り付けられていないが、ひとたび走り出せば、指先だけで操作できるほどステアリングは軽い。上腕の力が必要になるSC、もしくは肩から先をすべて動員しなければいけない3.2とは大違いだ。フロントエンドはややせわしなく感じられるものの、フロントに少しでも荷重をかければ、インフォメーションはよりクリアでダイレクトなものとなる。
 
コーナーに進入すると、ボディはかなりロールする。ドライバーであるあなたは、このときアウト側のリアタイヤがぎゅっと押しつぶされている感触を味わうはずだ。ここでスロットルを軽く戻すと、リア荷重が抜け、オーバーステアへと転ずる。どうやらこの車は、前輪ではなく後輪で"曲がる" ものらしい。また、ある程度までのペースであれば穏やかな反応を示すが、ちょっとしたきっかけさえあれば、リアヘビーの前後バランスをハンドリングに反映させることができる。エンジン出力が123bhpだから、さして速いわけではないが、夜道、濡れた路面、そして逆カントのついた道ではよくよく注意したほうがいいだろう。
 
ボヴィンドンも、このTには目を見張らされたようである。「どの時代の911を操っても、実に現代的な感覚を味わえることには驚くばかりだ。とりわけ明確に意識させられるのが、その正しさ、正確さ、公正さといったものだ。ただし、このモデルからはビンテージな香りがぷんぷん漂っている。リムが極端に細いステアリングホイール、グリップレベルの低さ、ロールの大きさなどがその象徴である。いずれにせよ、911の個性は明確である。うっとりするようなステアリング・フィール、コンパクトさ、そして何よりもドライバーが引き起こす荷重移動に対して律儀に反応するところが、その代表的な特徴だといえる。911はスポーツカーの基準を打ち立てたといっても過言ではない。そのノイズ、アジリティ、オーバーステア、そしてフィードバック。私はそれらを愛して止まない」

編集翻訳:大谷 達也  Transcreation: Tatsuya OTANI Words:John Simister 

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