人を夢中にさせるハードコアなポルシェ911

octane UK

初期型911は本格的なヒストリック・レーサーの間で人気が高い。何しろレース仕様では1000kg前後のホモロゲーション重量を下回るほど軽量で、かつ速いからだ。スタンダードの2リッターは130bhp、高性能バージョンのSは160bhpを発生、腕利きのエンジンビルダーならさらにパワーを引き出すことができる。
 
ちょっと前までは、ピーキーで整備が難しい小さなポルシェ6気筒はほとんどくたびれて使い物にならないと敬遠されていたが、ヒストリックレースやラリーが再び活況を呈し、しかもこの時代の911を本当に理解するスペシャリストが育ったおかげで、初期の911はきちんと走るようになり、筋金入りのファンから最高のモデルと見なされるようになった。
 
しかしながら初期の911は、その後のモデルよりも壊れやすく、ユーザーフレンドリーでもない。目一杯回して走る必要があるが、そうすると喧しく、神経質でハードだ。発売当初は腕に覚えのあるドライバーでも911の気まぐれなハンドリングにうろたえた。オーバーハングしたエンジンは以前の4気筒ユニットより約90kgも重く、しかも356と同じ4.5インチホイールを履いていたために、コーナー途中でスロットルを戻すと、突如激しいオーバーステアを引き起こしたからだ。ポルシェはフロントバンパーに22kgの重りを加えることで対処したが、理想的な治療法からはほど遠かった。
 
1969年、ホイールベースが2.5インチ延長され、リム幅も6インチに拡大されたことで重量配分とハンドリングが改善された。もっともヴィック・エルフォードなどのドライバーたちは初期の911の操縦法を身につけ、モンテカルロラリーやサーキットレースで華々しい戦績を挙げた。多くのヒストリック・レーサーは1969年以前のショートホイールベースを好む。今ではタイヤやダンパー、トーションバーやスタビライザーを交換することで適切に対処できるからだ。
 
初期の911はアドレナリンを生み出すポンプのようなものだ。車は小さく軽く、ドライバーの尻を中心に向きを変え、フラット6は高回転になればなるほど鋭く猛々しく回る。ムズムズするフロントタイヤの不明瞭なグリップに注意しなければならないが、一旦、911を運転するのは一般的な車とはまったく違うという事実を受け入れたら、あなたはきっと夢中になってしまうだろう。ポルシェは恐ろしいほどレスポンスが鋭く、ダイレクトで、飛ばさずにはいられない。

ただし、忘れないでほしい。コーナリング中にスロットルを戻すことだけは禁物だ。

編集翻訳:高平高輝 Transcreation: Koki TAKAHIRA Words: Robert Coucher

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事