911の最盛期を代表するカレラ2.7RSLの魅力

Photography: Stuart Collins

911が登場してから10年目、ちょうど安全性や大気汚染の国際的な法制度が整備され始める直前の1973年製、911の最盛期を代表するカレラ2.7RSLだ。
 
常に名車の一台として語られる伝説の"73カレラ"は、いっけん賭けともいえる、純粋にグループ4ホモロゲーションのためのスペシャルだった。ポルシェのセールス&マーケティング部門では当時FISAが要求する500台を売り切る自信はまったくなかったが、1972年のパリ・サロンでそれがベールを脱いでわずか数日後、オーダーはすでに満杯となり、生産計画は上方修正された。
 
2687ccから210bhpを発生するRSは最高速度152mph(245㎞/h)、静止から5.5秒で60mph(約100㎞/h)に達する。すべてのRSモデルは軽量で、仕様により異なるがだいたい車重1トン前後だ。メーカー発表ではRSツーリングが1308台、RSスポーツが200台、そしてホモロゲーション車両が17台生産された。"スポーツ"は車重960㎏〜 1035㎏のライトウェイトで、RSLとして知られている。
 
愛好家でありこのRSLのオーナーのマイク・ジョップはこれを2年前に手に入れた。以前のオーナーは新車から保有していたドイツ人で、コンディションは抜群だった。通常RSLはコントロールが軽く、ドライブフィールは卓越していて、不勉強な批判もあるようだがそれに反して不安はまったく感じられない。一風変わったダックテールスポイラーは高速でのリアの浮力を320ポンド(約145㎏)からわずか93ポンド(約42㎏)に軽減して安定を保つ。サスペンションの進化と車量の軽減、そして最新のピレリ・タイヤの装着と相まって、いたってノーマルでコントローラブルな911となっていた。15インチ・ホイールはフロントが6J、リアは7Jサイズだ。
 
パワーオーバーステアしても挙動は予想範囲内だ。スムーズに行こうがハードに攻めようが、一旦ドリフトに入ったら問題が起きる可能性があるから、賢いドライバーはコントロールを絶対に失うべきではない。

マイクの車はドライコンディション向きの、どちらかといえばワイドなミシェラン・パイロットカップスポーツを履いていた。彼が指摘したように、これは今回のようにウェットコンディションではベストなタイヤだとはとてもいえないが、それでもなお、彼の911は完全に安定を保っていた。コーナリングパワーは控えめで、かなり強めのアンダーステアを示すが、依然として内側のフロントタイヤをリフトするに充分なグリップがあった。

現在の標準に照らしても、これはとても速い車だ。だが想像してみてほしい。これが新車の当時、路上にはヴォクスホール・ヴィーヴァやモーリス・マリーナ、はたまたMGB等がひしめいている、そんなところでドライブしなければならなかったのだ。2.7RSは当時の標準のとおり比較的着座位置が高く見通しのよい充分なグラスエリアを持つが、今日のスタンダードでは風切り音やロードノイズ、予期せぬ風雨に悩まされる場合もある。それでもそれはすばらしく魅力的で、エンジンノイズすらとても素敵だった。

編集翻訳:小石原 耕作 Transcreation: Kosaku KOISHIHARA Words: Tony Dron 

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