最高のエンジンサウンドを放つコレクターズアイテム

Photography: Stuart Collins

究極のドライバーが選ぶ911には憧れのRSエンブレムが不可欠だろう。RSでレースを戦い、またロードテストをこなしているトニー・ドロンがそれぞれのRSを一気乗りして比較する。

競技車両として20台が造られたに過ぎない1984年911SC/RSを別にして、RSの名称は何年間か使われなかったが、私たちは1987〜1989の911カレラクラブスポーツクーペは欠かすべきではないと判断した。その比較的ノーマルなルックスにもかかわらずこの3164㏄のスポーツモデルは、手動巻き上げ式ウィンドウ、リアシート、ハイファイシステム、防音装備などとともに、ちゃんとRSスピリットを継承していたからだ。今回幸いにも、これら1988年モデルの2台をブランティングソープのテストに供することができた。

 
減量作戦はスタンダードスペックから100㎏をカットした。大きな数字ではないかもしれないが、クラブスポーツとしての違いを実感するには充分だ。パワーは231bhpのままだったが、軽量化されたインレットバルブは高回転を可能にし、レッドラインは6520rpmから6840rpmに引き上げられた。パフォーマンスは152mph(245㎞/h) のカレラ3.2とクラブスポーツとでは表面上の差はなく、60mphから120mph(193㎞/h)のアクセルレーション後半ではスタンダードモデルよりはるかに速い。
 
本国ドイツでは当初クラブスポーツには15インチホイールが設定され、後の1989年、16インチがオプションになった。ナイジェル・ライト所有の最初のテスト車(写真はない)は、最初から16インチホイールがついていて、これはおそらく当時のUKスペックだったのだろう。
 
すばらしい状態に維持されたこの911はオーナーの二人の友人デイヴィッド・ロイスとマイケル・ハリントンによって現場に持ち込まれ、私は彼らに感想を述べた。パフォーマンスはすばらしい。そしてコクピットで楽しむことができた、その日それまでで最高のエンジンサウンドだった。ただ実際のところかなりはっきりしたアンダーステアで、ステアリングは我慢ならないくらい重かった。これではカーブの多いコースでは常に疲れてしまうだろう。911では通常考えらないことだ。
 
デイヴィッドとマイケルは二人とも、ナイジェル・ライトもこのステアリングに満足しているといったがしかし、私は絶対に満足はしないし、これが16インチホイールの所為か、またはなにかの改造がこの車に為されたのではないかと疑ってさえみた。とにかく何かが間違っている。
 
アンドリュー・モリス所有の二台目のクラブスポーツは、私にはずっとましに感じられた。ほとんど新車の段階で15インチホイールにコンバートされ、ステアリングは軽く、そこには過度のアンダーステアへ向かう傾向はない。どちらの車にも純正ではない、リムの太い小径のステアリングホイールが着けられているが、これらはまったく私の好みではなかった。私なら、こんなものは直ちに捨て去って、オリジナルに戻すだろう。そうすればステアリングフィールが改善されるばかりか、メーター類が再びちゃんと読めるようになるはずだ。ただしこの小径のステアリングホイールがナイジェルの車のステアリングフィールを重くしている原因だとは思えない。
 
アンドリューのクラブスポーツでもっとも驚くべきことはマイレージがすでに40万マイル(64万3600㎞)をカウントしていることだ。エンジンはスインドンのディック・ラヴェット・ポルシェで20万マイル前にリビルド済だが、しかしそれを別にすればこれは定期整備しか受けておらず、ギアボックスさえ完全にオリジナルのままだ。それでもマシン全体は完全に見事というほかはなく、ポルシェの工学技術そのもといえる。
 
英国内に現存するたった50台ほどのクラブスポーツとともに、これはひとつのコレクターズアイテムだといえるだろう。総生産台数については、189台、312台、340台と専門家の間でも意見が分かれている。誰かが間違っているわけだが、真実がどうあろうとも、これがレアモデルであることに変わりはない。

編集翻訳:小石原 耕作 Transcreation: Kosaku KOISHIHARA Words: Tony Dron 

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