100年に1度の対決│2台のアストンマーティンを比較

Photography: Matthew Howell

自然吸気モデルとしては最後のフラッグシップとなるヴァンキッシュS。新時代アストンマーティンの最初のモデルとしてデビューしたDB11。どちらも600bhpのパワーを誇るスーパーグランツーリスモだ。その走りは、果たしてどれほど異なるのだろうか。ドライビングテクニックの異なる二人の意見に耳を傾けてみよう。

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アストンマーティンにとって歴史の転換点といえる年であったにかもしれない2017年。その象徴が、ヴァンキッシュSとDB11の存在である。ヴァンキッシュSは、アストンの最初の100年を飾る最後の量産シリーズの最新の進化形として20万ポンドの価格で登場し、ようやくデリバリーがスタートしたばかりだ。こちらが過去とのつながりを明確に打ち出しているのに対し、セカンドセンチュリープランの先鋒としてその少し前に発表された15万5000ポンドのDB11は、最新技術を満載し、今後の流れの大きな変化を確信させる存在である。いずれも600bhpを誇るV12エンジンのグランドツアラーだ。その2台が並行して存在するのだから、どちらを選ぶかという贅沢な悩みも生まれてくる。同時にその個性と方向性を直接比較できるということでもある。


 
これほどの車を戦わせるのなら、それにふさわしい壮大な舞台が必要だ。その背景として、ノースヨーク・ムーア国立公園の雄大な景色を越えるものはないだろう。広大な空間で思う存分に走り込めるうえ、ノースヨークシャーまでは3時間かかるから、長距離ドライブでの快適性をそれぞれにじっくり評価することもできる。それから荒野でドンパチを楽しもうという計画だ。走るコースといい距離といい、まさに夢のような機会である。

前置きはこのくらいにして、さっそく出発だ。このテストの魅力を裏付けるように、同行するマネージングエディターのピーター・トマリンは、久々にドライビンググローブを引っ張り出すことに決めた。彼が自宅でDB11の到着を待つ間、私は1泊分の荷物をバッグにつめて、ひと足先にヴァンキッシュSで北へ向かう。鮮烈なエレクトリックブルーにシャープな白のアクセントが映える。最新のヴァンキッシュはこれまで以上にホットで、あらゆる意味で鮮やかだ。ひと目見た瞬間に胸が高鳴る。
 
これから数日で発見することになるのだが、"S" には外観以外にも、ヴァンキッシュの再出発を飾るにふさわしい数多くの魅力がある。振り返れば、ヴァンキッシュの第二世代が発表されたときには新たな時代の到来に期待したものだが、実際には少々戸惑ったところもあった。原因のひとつは初期モデルに搭載されていた6段のタッチトロニックトランスミッションにあったのかもしれない。やがて8段の改良ギアボックスが投入されるが、フラッグシップにしては様々な意味でやや控えめであるように感じられたのだ。
 
だが、このヴァンキッシュSにはそうしたことは微塵も感じられなかった。スターターボタンを押すとすぐさま爆発的なエネルギーが溢れ出し、太い4本のエグゾーストパイプが、シャープなルックスを裏付ける好戦的な咆哮を高らかに歌い上げる。アンディ・パーマーやマット・ベッカーが次の100年のアストンは見た目通りの走りをすると言っていたのは、こういう意味だったのだ。
 
いかにもスポーティな外観と溢れんばかりの活力は新たな魅力だが、インテリアのベースは馴染みのあるものだ。ダッシュボードからセンタートンネルまで滝のように流れ落ちる幅の広いコンソールや、見た目にも美しいアナログのメーター類など、10年以上にわたって守られてきたアストンの"エッセンス" を踏襲している。高いウエストラインに囲まれたコクピットで低い位置に腰掛け、サポートに優れるスポーツシートに体を埋める喜びも相変わらずだ。
 
ヴァンキッシュSは、走り出した途端にドライビングにのめり込まずにはいられない車だった。予想通りにサイズ以上の圧倒的存在感を示したのが、5.9リッターの巨大なV12エンジンだ。吸気系と制御システムの改良によって、この自然吸気エンジンは"大自然" 並のパワーを身につけた。スロットルレスポンスの鋭さと吹け上がりのよさでも従来のヴァンキッシュを格段に上回る。ステアリングは予想以上に軽く、いっそうダイレクトで効きが掴みやすくなったことが、動き出した直後から感じ取れた。
 
見るからにパワフルな車だが、のんびり走るというデューティも驚くほど無難にこなす。たしかに車が持つ本質は常に意識させられる。けれど、その筋肉質な見た目に似合わぬシャシーのしなやかなダンピング性能のおかげで、コントロール性だけでなく柔軟な乗り心地も得ているのだ。"スポーツ" モードを選んで硬めのサスペンション設定に切り替え、反応を鋭くしたい誘惑にはもちろん駆られる。だが、一定の速度をキープすることを優先すべき状況では、落ち着いた走りを選択できるのはありがたい。
 
フロント255/35 ZR20、リア305/30 ZR20という太いタイヤを履いている以上、当然ある程度のロードノイズはあるが、遮音性は充分だ。ドライバーをうずうずさせるところがある車なのは確かだが、グランドツアラーとしての役割もきちんと果たしている証拠である。待ち合わせ場所のピカリングに到着する頃には、私はすっかりヴァンキッシュSの大ファンになっており、気に入っているいつもの道で解き放つのが待ちきれなくなっていた。

編集翻訳:嶋田智之 Transcreation: Tomoyuki SHIMADA  原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA Words: Richard Meaden 

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