フェラーリの化粧直し│コーチビルダーとの関係を振り返る

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では、イタリア国外のコーチビルダーについても見てみよう。ヨーロッパ各国やアメリカで化粧直しを受けたフェラーリは数え切れないほど存在する( EDアボット社の212エクスポートのように、触れないほうがよい例もあるが)。中でもおそらく最も有名なのは、1970 年代初めにパンサー・ウェストウインズ社が製造した365 GTB/4のシューティングブレークだろう。依頼主はノースアメリカンレーシングチーム(NART)を興したルイジ・キネッティだ。当時最もワイルドなフェラーリといっても過言ではなく、今でも純粋主義者が見たら目眩を起こすに違いない。ほかにも、4ドアにしたル・マルキ社の400iサルーンや、ケーニッヒ社による厚化粧のテスタロッサ、ソフトトップにコンバートしたアーツ社のモデルなどが存在する。
 
しかし、今やコーチビルダーがフェラーリを自由に料理できる時代は終わった。自動車メーカーの中でも、フェラーリ以上にブランドや商標にうるさいのはロールス・ロイスくらいだろう。もはや相手が誰であっても、名高い社名を利用することは許されない。

たとえば最近、トゥーリングがF12 をベースにしたベルリネッタ・ルッソを発表したが、跳ね馬のロゴが付く場所はこれ見よがしに空いていた。元祖トゥーリングは、フェラーリの名声を高めるきっかけとなった166MMバルケッタを生み出したが、過去は過去なのだ。

今、ビスポークのフェラーリが欲しい人は、フェラーリから買うしかない。これも、すべての事業を社内に移す方針の一環だ。今や主流モデルをはじめとするデザインは、すべてフラビオ・マンツォーニ率いるフェラーリ・チェントロ・スティーレ(デザインセンター)に任されており、外注されるものはほとんどない。
 
歴史あるイタリアのカロッツェリアは、その多くがお家騒動で潰えてしまった。長年のパートナーであるピニンファリーナは、現在も活動を続ける数少ない例だ。ただし、ここ3年間は量産モデルを手掛けておらず、最近はルーツに立ち返ってワンオフの製作に力を入れている。たとえば、ロックの神様エリック・クラプトンのために、458をベースにSP12ECを造った。これは、外部のコーチビルダーの作品で跳ね馬のロゴを付けたおそらく最後の例となるだろう。とはいえ、当時も既にフェラーリ社内のデザイン部門との共同作業だった。
 
フェラーリに関する限り、コーチビルダーが復活を遂げることはなさそうだ。最近ではクリエイティブといっても、ゴールドのラメで少々飾る程度が関の山である。しかし、かつてのワンオフや少数生産モデルには、主流モデルだけでも豊富なフェラーリのレガシーをいっそう多彩なものにする創造性があった。
 
私たちがそうした車の数々に畏敬の念を覚えるのは、外観だけでなく、背後にある物語にも心惹かれるからだ。どんなフェラーリより独創的で、その形を生み出した才能や、時代のムード、依頼主の人柄などを魅力的な形で反映していた。たとえ時代が変わっても、その記憶が色褪せることはない。

Words: Massimo Delbò

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