2台のロールス・スロイス ドーンで高級車の定義を比較する

Photography: Jamie Lipman


 
ドーンはフラッグシップのファントムより若い層を取り込めるだろうとロールス・ロイスでは見込んでいる。そのセールスブロッシャーは今や、30歳代のスマートカジュアルを着こなしファッションモデルを連れた"髭のデザイナーたち"に行き渡っているらしい。さらにはドーンの価格はファントムの価格の3分の2以下だ。もちろん走りも素晴らしい。走らせればそのサイズを意識させるものは何もなく、アクセルレーターを踏みつければ5秒以内で60mphに達する。この場合、V12エンジンは控えめな唸りを発するが、事実上聞き取れない。そして決して小さくはないロールス・ロイスが本当のドライバーズマシンに変わる。ステアリングにどっしりとした反応を感じるまでは速度感応式可変パワーアシストが適度な助けをしてくれる。エアスプリングの恩恵で、フラットな姿勢を保ったまま抜けるコーナリングは特筆に値する。周りからのこの車への先入観を打ち破るのは愉快この上ない。
 
走行性能は許容できるが、2.5トンの車重で大径の20または21インチホイールとサスペンション等によるバネ下重量を、"マシュマロ感"なく制御するという問題は残る。またたとえばモダンカーしか運転しない顧客には、おそらく気づきさえしない極めてわずかな問題点が解決される様子はない。また最近の製品としてはめずらしく、ロールス・ロイスはドライバーによるサスペンションセッティング機構をドーンのオプションに加えなかったし、最近の例に従ってレヴカウンターは存在せず、個人的にはギミックとしか言えない、回転計とは逆の動きを示す"パワーリザーブインジケーター"がメータークラスターに収まる。
 
マニアックなドライバー諸氏は、おそらくオプションの8速オートマチックギアボックスを歓迎するだろう。これは今日においてはほとんどレトロとさえ言える生粋のオートマチックだが、ロールス・ロイスの新技術「サテライト・エイディッド・トランスミッション(SAT)」は完璧だった。これは前方の道路をGPS データで認識し、適正なギアを選択するというものだ。これら運転の面白さから言っても、これはかなりなオーナードライバーズカーなのだ。
 
ロールス・ロイスブランドは、たとえ今はドイツ企業の所有であっても、英国を代表するリスペクトを勝ち取っている。自社の製品に長く乗り続けたロールス・ロイス社のPRマンであるジェイムス・ワレンはこう語っている。「我々の長く続いた混迷の時代は終わった。今ではスマートフォンカメラのシャッター音とサムズアップの嵐だ」
 
現代においてロールス・ロイスをドライブすることは、単に財産があるというより趣味人としてのアピールになる。現代の"iPhone世代"は現在のロールス・ロイスの特色のあるスタイルを受け入れるデザイン教養を充分に備えているが、デザインと言うものはしかし常に進化する。発表時期はアナウンスされていないが、2016年、ファントムはまったく新しいモデルにとって代わることになる。ゴースト、レイス、ドーンは引き続き顧客の判断に任せられることになる。合理化とも言えるが、これらの動きを見るにつけ、ドーンの名称の復活は当初考えられていたよりもっと適切だったのだろう。

編集翻訳:小石原耕作 Transcreation: Kosaku KOISHIHARA Words: Mark Dixon 

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