世界に衝撃を与えたベントレーが生んだ格安の高級クルーザーとは?

octane UK

ベントレー・ターボRを全開で飛ばしたときの衝撃は他に類を見ない。加速で大げさに騒ぎ立てる車と違って、呆気にとられるほどの余裕で速度を上げていき、無尽蔵にも思えるトルクで楽々と突き進む。現代の基準からすれば目も眩む速さとはいえないが、2.5トンもの鉄の塊(とウッドパネルとレザー)が静かに悠然とスピードを上げていく様は、自然法則に反するようにすら見える。そのため、発売時は7万9397ポンドと高額だったにもかかわらず、ベントレー史上最高のベストセラーとなった。現在では1万ポンド以下でよい状態のものが手に入る。事実、『Octane』副編集長の美しいインジェクションモデルは、2014年にオークションでたった7700ポンドで落札された。1台所有してみたくなるのも当然だ。
 
ターボRは1985年にベントレーのフラッグシップとして登場。SZ系ロールス・ロイスのシルバースピリットをベースとした。実質的に1982年のミュルザンヌ・ターボの後継モデルで、同じ6.75リッターのV8エンジンを搭載するが、控えめなモディファイで出力を約300bhp、トルクを470lb-ftに高めた。
 
パフォーマンスの向上に合わせて、シャシーにもわずかではあるが効果的な変更が施された。車名の“R”はロードホールディングの頭文字だ。前後のアンチロールバーを太くし、補助としてリアサスペンションはパナールロッドでアクスルとサブフレームを結び、全体をより引き締めると共に左右の動きを制限した。快適性を最も重視した点は変わらないが、操縦性が加わったことで、スピードの向上をより強く実感できた。ベントレー初のアロイホイールに、太いエイボン・ターボスピードを履いたことも大きい。
 
1年後には、ソレックス製キャブレターに代えて、効率的なボッシュ製モトロニック・インジェクションシステムを導入。パワーとトルクはほぼ同じで(公式な数字は未発表)燃費が向上した。1988年にはヘッドライトが4灯になり、ほかにも外観を少々アップデート。1992年には新たにGM製ATを3段から4段型に改めた。
 
少し古さが感じられるようになると、1995年に外観をマイナーチェンジし、新型のインジェクションシステムによって出力を約350bhpに高めた。続いて60台限定のターボSが登場し、ターボの拡大で約385bhpにパワーアップした。ターボRは驚くほど長命で、1997年に登場したターボRTの特別仕様で最後を締めくくった。ターボRTは、エンジンにさらにモディファイを加えて実質的にコンチネンタルTと同じ仕様にし、出力は400bhp、トルクは552lb-ftを誇った。
 
ひと頃は、使い込まれて少々くたびれたターボRがゴロゴロしていたのを覚えている。今では状態の悪い車はほとんどなくなった(中古パーツが充実したためでもある)。後期モデルは現在も大幅に高い値で取引されている。走りの面でも維持のしやすさでも上回るためだ。しかし、初期と後期の間を取れば素晴らしい掘り出し物が見つかる。そうした車をオークションで見つけたら、まず自分の目できちんとチェックした上で、厚かましいほど低い金額で入札してみるといい。ひょっとしたら、伝統を受け継いだ最後のベントレーが、法外な安値で落札できるかもしれない。その後の維持費も思いのほか高くはないから大丈夫だ。

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA

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