新技術やコンセプトを持つ新作時計│Basel World 2019

例年3月に開催される「バーゼルワールド」は、世界最大の時計と宝飾の見本市であり、ブランドごとに巨大なブースを建てて、そこで新作時計のプレゼンテーションを行う。世界中からバイヤーやジャーナリスト、あるいは時計愛好家たちが集まる巨大なイベントは、今年、激震に見舞われた。バーゼルワールドの主役の一角であり、数多くの名門ブランドを傘下に収める世界最大の時計コングロマリット「スウォッチグループ」が、不参加を表明したのだ。さらには高騰する参加費の影響もあって、中小ブランドも参加を取りやめる事態へと発展。イベント規模を縮小せざるを得ない状況に追い込まれてしまったのだ。しかしだからといって、そこで発表される時計の魅力が失われることはない。
 
時計技術や素材の進化、あるいはユーザーの好みの変化に合わせて嗜好性を高めたデザインなど、エンジニアリングに磨きをかけることで、高級時計はさらに自由度を増している。そこで今回は、特に刮目すべき新技術やコンセプトを持つ新作を紹介。実に語りどころの多い時計たちだ。



クラシック・フュージョン フェラーリGT 3Dカーボン
ウブロはフェラーリとパートナーシップを結んでいるが、今年はグランツーリスモのエレガントなスタイルをテーマにデザインされたモデルを発表した。端正なケースで人気が高い"クラシック・フュージョン"のコレクション名を冠しているが、ケースの形状も含めたほとんどのディテールが、既存モデルとは全く異なる。これはフェラーリデザインセンターとの共作から生まれたモデルであり、ベゼルにビスをあしらったりラグをフラットにしたりと、ウブロのデザインコードは意識しつつも、カーボン素材を使った立体的なケースなどパートナーシップモデルならではの"自由さ"を堪能できるのだ。世界限定500 本、自動巻き、3Dカーボンケース、ケース径45㎜ 。312万1200円(税込予価、9月発売予定)



BR 03 - 92 DIVER GREEN BRONZE
優れた防水性能が必須となるダイバーズウォッチは、ケースバックをねじ込み式にすることで強固な防水構造にするのがセオリー。しかしベル&ロスが提案するのは、同社のアイコンである航空計器の姿を模した角形ケースを使ったダイバーズウォッチ。すっきりとした見た目によって、"計器としての美しさ"を引き出しつつ、防水性能も300 mを確保するという秀作だ。しかも今年の新作は、かつて潜水器具の材料として使用されていたブロンズをケース素材として使用している。この素材は徐々に酸化して色を変えていくため、"自分だけの一本"へと育てていく楽しさがある。ちなみにグリーンは今年のトレンド色だ。世界限定999 本、自動巻き、ブロンズケース、ケース縦42×横42 ㎜。56万1600円(税込)



オータヴィア キャリバー5 COSC
自動車用のダッシュボード計器として、1933年に誕生した「オータヴィア」は、1962年に腕時計として再登場。その後は何度か限定モデルとして復活したが、ついに今年からレギュラーモデルとなった。デザインは現代的に進化するが、最大の特徴は時計内部にある。時計の精度に最も大きな影響を与える「ヒゲゼンマイ」というパーツを、カーボンコンポジット素材で製造しているのだ。その結果耐衝撃性に優れ、磁気帯びもせず、温度変化にも強くなった。しかも高精度の証であるCOSC 認定クロノメーターも取得しており、時計としてのレベルは抜群に高いのだ。それでいて価格は30万円台というのも驚くべきこと。今年の目玉時計である。自動巻き、SSケース、ケース径42 ㎜。41万5800円(税込予価、6月発売予定)



デファイ インベンター
機械式時計の根幹機構は、“テンプの振動によってアンクルを動かし、ガンギ車の動きを制御する”というメカニズムであり、3 世紀以上も前に開発された。この伝統技術を一気に進化させようとしているのがゼニスだ。このモデルに搭載される「ゼニスオシレーター」は、30 以上のパーツで構成されていたメカニズムを1 枚のシリコン製振動子に集約。その結果、耐衝撃性や耐磁性能が飛躍的に高まった。しかもパーツが少ない分メンテナンス性も向上しているのもメリットだ。この画期的な新機構に合わせるように、ベゼルにはアエロナイトという特殊素材を採用。そのビジュアルは、まさに次世代の時計と呼ぶにふさわしい。自動巻き、Ti×アエロナイトケース、ケース径44 ㎜。220万3200円(税込予価、10月発売予定)



オクト フィニッシモ クロノグラフ GMT
ラグジュアリーメゾンであるブルガリだが、近年は時計技術が凄い。特に薄型時計の開発に力を入れており、「自動巻き」「手巻きトゥールビヨン」など4ジャンルで世界最薄記録を樹立しているが、今年はそこに「自動巻きクロノグラフ」が加わった。このモデルに搭載されるムーブメントの厚みは3.3㎜しかなく、ケースの厚みは6.9㎜に抑えている。その秘密は、駆動ゼンマイを巻き上げる回転錘をムーブメントの周囲で回すペリフェラル・ローター。しかも3時位置に24時間式のホームタイム表示を持つ多機能モデルで、9時位置のプッシュボタンを押すとセンター時針が動く。薄型であっても機能にもこだわるレベルの高い時計だ。自動巻き、Ti ケース、ケース径42㎜。207万3600円(税込予価、7月発売予定)



ナビタイマー REF. 806 1959 リ・エディション
長い歴史を持つ老舗ブランドにとって、過去の傑作モデルは何にも代えがたい財産である。それゆえ復刻モデルを作ることが多いのだが、1884年創業のブライトリングはかなり本気だ。同社の看板である「ナビタイマー」は、1952年に生まれた世界初の航空用回転尺付きのクロノグラフなのだが、特に1959年製モデルは傑作の呼び声が高い。このモデルを細部まで忠実に再現したのがこのモデル。当時の味わいを引き出すために、当時と同じく手巻き式ムーブメントを新開発しており、ベゼル部分のパール装飾の数などデザインを細部に至るまで丹精を込めて再現しているというから驚きである。本気で歴史と向き合い、その価値を語るのも、老舗ブランドの責務なのである。手巻き、SSケース、ケース径40.9㎜。103万6800円(税込、5月発売予定)

文:篠田哲生 Words:Tetsuo SHINODA

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