近代的大量生産を実現した記念すべき第1号モデル

 Image: PEUGEOT CITROËN JAPON

シトロエンの名を冠した記念すべき第一号モデルが披露されたのは、第一次大戦終結から半年たった1919年6月のことだった。アンドレ・シトロエンは大戦前から自動車産業に深く関与しており、メーカーの経営にも携わっていたが、それは高級車のモールであった。時代が真に求めているのは大衆車であり、大戦中に砲弾の大量生産で一躍名をなしたアンドレ・シトロエンは、平和な時代が訪れるとすぐに、自らの名を与えて、量産自動車メーカーを立ち上げた。
 
この第一号モデルはタイプAというモデル名だが、最初の車にAと付けるのは、どのメーカーでも当時はふつうで、シトロエンは10HPという名で売り出した。課税馬力でモデルを区別するのも当時の慣習だったが、ただしフランスでは馬力はCVと表記するのが一般的なので、英語のHPを使うのは、つまり外国車風の呼び方でセンスの違いをアピールしているのだった。もっとも正確には課税馬力は8CVであった。


 
タイプA は、とにかく量産を目的にしており、設計としてはオーソドックスだった。そもそも当時は"量産車"自体がフランスにはなかった。簡便で粗野なサイクルカーのような車両があふれるなかで、近代的な大量生産の工程に耐えるよう、しっかりした工業製品として設計されたタイプAは、それだけでも大衆車として画期的なことだった。
 
エンジンは直列4気筒で、排気量は1327ccである。リアサスペンションは片持ちの1/4楕円リーフにしていたが、これによってフレームを短く軽量にすることができた。タイプAで注目されるのはその軽さで、800kg程度しかなかった。
 
当時はシャシーだけで売るのもふつうの時代だったが、シトロエンはボディはもちろん、さまざまな装備類もすべてセットで完成品の状態で売ったのが新しく、現代的だった。とはいえボディ形状は数種類あり、2550mmのショートホイールベース版もあった。外観上の印象としては、標準モデルのホイールベースが2830mmと長いことに加え、フェンダー形状もシンプルかつ伸びやかで、実用本位のT型フォードなどよりも、少しフランスらしいというべきか、軽妙さが感じられる。オーソドックスながらしっかりしたつくりで、なおかつ軽快感を感じさせるところが、このシトロエン第一号モデルの魅力である。

文:武田隆 Words:Takashi TAKEDA

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事