フランス車に魅了され世界的コレクターになった人物│そのきっかけとは?

Photography: Peter Mullin

フランス車を中心としたクラシックカーコレクターとして知られるのが、「マラン・オートモーティブ・ミュージアム」の創設者であるピーター・マランである。アメリカで生まれ育った彼がフランス車に心奪われるきっかけとはどのようなものであったのだろうか。また、シトロエンの魅力、一番好きなモデルに選んだのは?

世界には様々なコレクターがいるが、ピーター・マランほどフランス車に特化したコレクションをしている人物はいない。ブガッティ・タイプ57SC・アトランティークなど、フランスが生み出した名車の多くを所有し、著名なコンクールではベストオブショーも幾度となく授賞している。彼は、車はオリジナルコンディションで保管するべきと考えのもとでコレクションをしており、レストアされている車は基本的に購入しない。



なぜ、そこまでこだわりを持つのかといえば、レストアする過程でその車が持つ美しさを損なう可能性があると考えているためだ。それを象徴するようものとして展示されているのが、75 年間池の底に沈んでいたところを発見されたブガッティ・タイプ22だ。錆びて朽ち果てた姿となったこの車を見た人々は口を揃えて、「この車をレストアしないのか」と尋ねるそう。しかしマラン氏は、この1 台はエットーレ・ブガッティが生み出した芸術品の1 つであり、触れることすら犯罪行為に近いと考えているのだ。湿度など環境を整え、「保存」していくことこそが彼が出来る唯一のことだという。このように、ブガッティはもちろんのこと、ドライエ、ドラージュ、ヴァワザン、タルボ・ラーゴの戦前モデルをはじめとし、シトロエンやプジョーもコレクションしている。では、彼がフランス車に心を奪われたきっかけとは何だろうか。


 
それは突然に訪れた。ある日、マラン氏の家の前で車を撮影させて欲しいという人物が訪ねてきた。何の車が来るか知らずに、快く承諾したところ、現れたのはゴージャスで美しい1台のドライエだった。その時、マラン氏はドライエの存在も、どこの国の車かも知らなかったが、「今まで見たことのある車のなかで一番美しい車だ」と大きな衝撃を受けた。そこからフランス車の世界にのめり込み、タルボ・ラーゴT26 レコード・カブリオレを手にし、彼の本格的なコレクションがスタートした。今となっては、マラン氏はフランス車のエキスパートであるともいえるが、ブガッティはイタリアのメーカーだと当時は思っていたそう。
 
彼がフランス車を好きになった理由としては上に述べた通り、デザイン性の高さもあるが、さらに魅了される要素はその技術の高さだという。フランスが生み出してきた車は、デザイン性も高いが、グランプリやラリーでも活躍できるパフォーマンス性を持っていたのだ。

また、シトロエンを好きな理由を聞いてみても、一番に「テクノロジー」と言葉が発せられた。アヴァンギャルドなデザインも魅力的だが、ハイドロサスペンションなどの開発をしたことは素晴らしい功績だと語る。彼のミュージアムはアールデコを基調としていることもあり、優美なデザインの車が好きなのかと思っていたが、一番好きなシトロエンは何かと聞くと、「一番好きなシトロエンは、SMだよ。マセラティのエンジンを搭載しているそのパワーが好きなんだ」という答えが返ってきた。

過去にはシトロエンをテーマにした企画展も開催しており、ミラノ・トリエンナーレで展示された時と同じように、DS19 の姿もあった。
 
もし、彼がコレクションを辞めなければならない時が来たら、しまい込むのではなくて大事に受け継いでくれる人物が見つかるようにオークションに出展するという。フランス車の世界というのは、一度足を踏み入れるとなかなか抜け出すことの出来ない深さを持っているようだ。

オクタン日本版編集部

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