人に優しくポップで温かみある車造りを│シトロエンのブランド作り

Photography:Kazuhiro NANYO , PEUGEOT CITROËN JAPON

人に優しくポップで温かみある車造り、というブランドイメージを基本戦略として策定したのがアルノー・ベローニだ。100年を経たシトロエンが、迷いなく目指す方向性とは。

歴史あるブランドの100周年を祝うために何をすべきか? 創業者アンドレ・シトロエン以来の伝統やヘリテイジはもちろんですが、ブランドの価値観を反映したビジョンをもっとはっきりと示さないといけません。その柱となるのが、シトロエン・オリジンズという100周年を記念した各モデルのコレクターズ・エディション車両であり、マグカップから鞄や子供服までシトロエンのライフスタイルに基づいたアイテム販売であり、そしてジュネーヴで発表したコンセプトカーと昨年来、流しているショートムービーです」と、立て板に水のごとく、ベローニ氏は話す。ここ数年のシトロエンの、人に優しくポップで温かみある車造り、というイメージを基本戦略として策定した人物だ。

「まず100周年記念仕様については、白と黒のツートンという市場で迎え入れられやすいボディカラーながら、カッパー色のアクセントをステッチやダッシュボード、エアバンプに効かせています。過去のトラクシオンアヴァンや2CVにも相通じるカラーリングです」
 
確かに、ただの白黒だと殺伐としそうなところだが、内装の柔らかなグレーのトーンにカッパー色の温かみが加わって、パリの自動車メーカーであるシトロエンならではの、趣味のよささえ感じさせる。対照的に、ジュネーブ・サロンのブース中心に現れたオリジナルグッズのスタンドは、のカラフルで賑やかなこと。ロゴTシャツやマグカップ、キーホルダーにミニカーはもちろんのこと、バッグやアウター上着のようなアパレル商品も充実していた。



「2015年には50万ユーロだったオリジナルグッズの売上は昨年、500万ユーロにまで伸びました。シトロエンをライフスタイルとして身近に感じてもらうことはもちろんですが、元よりシトロエンは世界一、クラブ員の数が多い自動車メーカーでもあるんです。それにアンドレ・シトロエンは自動車をデモクラタイズ(民主化)しただけでなく、ミニカーなど周辺グッズを販売に生かすマーチャンダイジングの面でも、同時代のウォルト・ディズニーに並ぶ先駆者ですからね」
 
100周年というアニバーサリーゆえに過去はふり返りつつも、現在の立ち位置でそのエコーや反映を必ず示すのがベローニ氏の手法といえる。

ところで映画が発明された国でもあるフランスでは、企業のコマーシャル・フィルムも本格的な短編仕立てが多く、シトロエンはCMが面白いブランドのひとつとしてつねに挙げられるほど。実際の映像は動画サイトでの検索や公式サイトで確かめて欲しい。主人公はヒッチハイカーで、田舎で母子の乗る2CVから始まって、HバンやDSやCXやメアリ、そしてセバスチャン・ローブのドライブするクサラWRCまで、まるでタイムマシンのように歴代シトロエンに次々と乗り込んでは時間軸とシーンが切り替わっていく。

クサラ・ピカソの時代には幼少の自分自身を見つけて一緒に後席に乗り込みさえするし、C4ピカソで一緒になる恋人とおぼしき女性と、家族で乗り込んでいるC4カクタスでパートナーが変わっている辺りも、フランスの仕立てを感じさせる。最後にC-エクスペリエンス、そして最新のコンセプトカーであるAmi Oneを登場させ、現在から未来へ繋がるストーリーであることが了解される。そのAmi Oneについて、ベローニ氏はこう説明する。


「Ami Oneは、街のオブジェ的な存在というか、EV化と自動運転が行きついた先にもたらされる、究極の自由を示してもいます。フランスでは14歳以上、EU圏では16歳以上になれば誰でも乗れるヴォワチュール・サン・ペルミ(免許不要の車、という意味)というカテゴリーがあるのですが、これに準拠する一台です。街の各所にフリーフローティングしているカーシェアで、スマートフォンをメーターパネルに嵌め込みさえすれば、好きなところに連れて行ってくれる、そういう未来が描かれている車です」
 
移動の自由と、究極の快適性を極め続けること。それが100年を経たシトロエンが、今も迷いなく目指す方向性なのだ。

文:南陽一浩 Words:Kazuhiro NANYO 写真:南陽一浩、プジョー・シトロエン・ジャポン 

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