公道走行できる蒸気機関車?!ドラマチックな感覚を体験する

Photography: Paul Harmer



これらの、それにトラクションエンジンやロードローラーを含む、ほかの見たところロマンチックではないスチームパワーの乗り物は、他にも何かを持っていた、それはカリスマ性だ。最盛期から80年以上たっても多くが生き残っている理由を恐らくこれが説明しているだろう。ナショナル・トラクション・エンジン・トラストの本には、687のポータブルエンジン、160の蒸気消防車、125の遊園地の乗り物やオルガンエンジンと一緒に、2851が掲載されている。

石炭で動くマストドン(絶滅した動物)を国中の田舎で開催される集まりに連れて行く、オーナー、レストアラー、スペシャリストからなる大きくて、閉鎖されたコミュニティーがある。ある人はキャラバンを牽引して、到着まで何日もかけてやって来る。私の家の近くで開催されるウィールドのイベントまで48時間前、若干すすで汚れたオーバーオールを着て、ハンチングや山高帽をかぶった人たちがお互い挨拶しながら行き交うにつれ、ホイッスルの音、機械の音でにぎやかになる。

彼らのゆっくりしたテンポは、本当に観劇している様な感覚にさせる。まだ遠くにいるうちから音が聞こえて来て、通り過ぎた後もかなりの間聞こえる。この楽しさは、前を行くとても遅く、大きなものに怒り、追い越そうとして起きたいくつかの事故によって台無しになった。ベテラン興行師のキャラバン数台が廃車になってしまったが、トラクションエンジンと普通の車がぶつかると、普通の車はひとたまりもない。オーナー達数人は、番人の様に黄色いライトを灯した友だちの車と一緒にロープで囲い走ってたりしている。

私たちにはジェレミーの義理の父ジョナサン・“ウォッシュ”・ヘイズ(彼のウォッシュボードの演奏技術からそう呼ばれていた)が後ろに着いていた。時には、氷山の動きのような写真をフォトグラファーのポール・ハーマーに撮ってもらえるように、前に移動する。ポールは『難しいかもしれないが』と言う。

途中昼食に寄った時に、トイレに行く。ライムソーダのせいか、神経質になっているせいかはわからない。いろいろ説明してもらうためにコリーンの小さなフットプレートによじ登る。私の前には、定期的に超音波検査で問題ないとチェックされた長くて丸いボイラーが伸びている。ジェレミーにもし問題があったらどうなるか聞いた。『爆弾が爆発する様な感じだね』と彼はあっけらかんと言う。『みんなここにはいなくなるだろうね』



前方の視界は、ツインシリンダーと巨大でむき出しのコンロッドを収める四角い覆いを前にし、コリーンの煙突によって二分される。前後に移動するのをコントロールする大きなレバー。コリーンには低と高のギアがあり、木の切り株を引き抜けるくらいのトルクと時速4マイルで、静止した状態でのみ使われる。後者は道路では最高時速12マイルまで出せる。『だけど』とジェレミーは言う。『狂った様に上下するんだ』後輪にある非常に強力なブレーキブロックはハンドルでオンオフできる。 計器は?不吉な赤い線のある丸いプレッシャーゲージ、ガラスの温度計に若干似ている水位計がある。ほとんどのその表面は触るには熱すぎる。

ジェレミーが操縦し、ジェームスが口の様な火室に“いいウェルシュの石炭”をくべ、その他いろいろ微調整する。すると、コリーンは蒸気を吐き出し、ゴロゴロ音を出しながら進み始める。トラクションエンジンを操縦するには一定の労力と集中力が必要だ。道路状況、駐車してある車両、笑いかけて来る通行人をうまくこなすには、事前の計画と両者へのどのように行動すれば良いかの説明が要求される。よくある自殺行為にも似た追い越し行為に対する忍耐も必要だ。

Words Martin Gurdon 抄訳:古川浩美 Translation: Hiromi FURUKAWA

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