ポルシェの進化を如実に物語る4台を一挙に比較!│第三弾 中毒性のあるマシン

Photography: Charlie Magee

似ても似つかない4台がポルシェの進化を如実に物語っている。ジョン・シミスターが356 4カム、911 2.7 RS、968クラブスポーツ、カレラGTの重要性について解き明かす。第三弾 968クラブスポーツ

356カレラ2 、911RS2.7 、カレラGTのどれかを手に入れるには少なくとも数十万ポンドを支払わなければならないが、残る1台はこの例に入らない。それが968クラブスポーツだ。ここで紹介する1 台は現在売り出し中のもので、なにひとつ漏れのない整備記録を備えていながら、いまつけられているプライスタグは3万ポンドを下回っている。

しかし、だからといって本企画からこの1台を落とすのは筋違いというものだ。968クラブスポーツが優れたドライビング・マシンであることは周知の事実である。とはいえ、ウォータージャケット付きのエンジンをフロントに搭載し、その原型である924はフォルクスワーゲン・ブランドで販売されようとしていた。その生い立ちでも、本当にポルシェらしさを表現できるのだろうか?


 
普段は後ろ向きに倒れていて、必要なときに起き上がるヘッドライトを備えたノーズ周りは928との結びつきを感じさせるいっぽう、サイドライトやウィンカーはタイプ964時代の911と共通のデザインだ。後ろ姿はポルシェ一族の血筋を受け継いでいることを示している。セミトレーリング式リアサスペンションとトランスアクスル式ギアボックスは911そのもの。これらは944にも共通する特徴だが、4気筒エンジンをフロントに搭載したポルシェのなかで、ひときわ生き生きとした走りを見せるのが968クラブスポーツであることは論をまたない。
 
このスポーツカーをクラブスポーツたらしめているのはエンジンではない。なぜなら、2990cc の4気筒ユニットがもたらす最高出力は240bhpでスタンダードな968と変わらないからだ。しかし、サスペンションはスプリングがより硬く、車高がやや下がったタイプに改められているほか、パッケージ・オプションを装着した試乗車の場合、リミテッド・スリップ・デフと大型のブレーキが奢られていた。さらに快適装備を省略することで50kgもの軽量化を実現。ここで取り外されたのは、リアシート、パワーウィンドウ、集中ドアロック、ラジオ、テールゲートロック、ボンネットの裏側に貼られた化粧板、そして遮音材と遮熱材のすべてである。
 
そのいっぽうで、ポリウレタン製シェルのレーシングシート、シートの裏側を除いて黒一色となるインテリアが新たに設けられている。試乗車はここにモモ製ステアリングホイールを装着している。そして走り出せば、スタンダードなデュアルマス・ホイールが一体式のものに交換されていることに気づくだろう。 



この結果、トランスミッションからはバタバタやガタガタという音が聞こえ、まるでレースの出場準備が整った黄色いミサイルのような感触を伝える。パワートレインの温度が上昇すると、ギアボックス本体からは遠く離れているはずのシフトレバーも次第に熱くなるほか、コンソールも熱を持ってそこに置いたスマートフォンがシャットダウンを起こす事態を招く。大量の吸入気を吸い込むポルシェ・バッジ付き直列4 気筒エンジンは、乗り始めの直後こそ調和を保って走らせるのが難しく思えるが、ほどなく、余裕あるトルクがもたらす"トルクのスリル"に熱中してしまうほか、4つの大きなピストンが実に滑らかな往復運動を行うことに驚かされる。2本のバランスシャフトがこうしたキャラクターを実現するのに役立っていることは疑う余地がない。
 
低い位置に取り付けられたリクラインなしのバケットシートにベルトで括り付けられ、目の前の真正面に据えられたレヴカウンターと再び対峙し、6段ギアボックスを操りながら、重量物の収まった長いノーズ(これぞ911との最大の相違点だ)をコーナーの向きにあわせるべく操舵すれば、ステアリング・フィールは紛れもなくポルシェのものであることに気づくだろう。基本的なアーキテクチャーがまったく異なるのに、キャンバーの変化にあわせて身をよじる点までそっくりだ。そして、この車にも鮮やかに設定されたバランスと精密に調整されたスロットルが備わっていることを見いだすはず。しかもレスポンスが鋭いため、コーナリング中も思いのままにパワーをコントロールできる。


 
911RSと同じように、968クラブスポーツにも人を惹きつけて止まない中毒性の魅力が溢れている。なかでも、次の点は"年上のいとこ"から引き継いだ"かけがえのない長所"といえる。それは乗り心地で、強力なダンパーによって揺り戻しが抑え込まれており、このためロールが多少大きくとも限界まで安心してプッシュできる。これは驚くべきことで、これだけソリッドなサスペンションを備えた現代のモデルであれば、コーナーもよりフラットな姿勢で駆け抜けられるはずだ。
 
もしもこの968 が自分のものだったら、私はサスペンションを標準のクラブスポーツ仕様に戻すだろう。それでも、路面にあわせてしなやかに伸縮する足回りは私を決して飽きさせない。また、車重がずっと軽いRSには加速感の点で及ばないものの、フラットアウト時の速さは同等で、出力特性はRSほどピーキーではない。しかも、それがRSに比べれば取るに足らない価格で手に入るのである。

編集翻訳:大谷達也 Transcreation: Tatsuya OTANI Words: John Simister  Photography: Charlie Magee

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