本国オーナーに聞いた、愛車との日常│乗りにくい車の魅力とは?

Photography & Words:Tomonari SAKURAI

単なる移動手段から父から受け継いだというコレクションまで、現地でオーナーに聞いた、様々なシトロエンとの暮らし。

1925 CITROËN TypeC Owner : Thierry BRIET

鮮やかなブルーのタイプC のオーナーはムッシュ・ティエリー・ブリエだ。もともと車好きで、ケータハム・スーパーセブンをキットで購入して楽しむほどのエンスージアストだ。その彼が古いシトロエンのオーナーになろうと考えたのは、友人が手放すというのを聞いたからだった。フランス車であり、何より小さいことが気に入った⋯、という軽い気持ちだったようだ。手に入れてから、レストアを施して新車のように仕上げた。


 
この時代の車には現代のそれとは勝手が違うことが多々あるが、タイプCの場合では3個のペダル配置だ。中央がアクセルペダル、その右側にブレーキペダル、左がクラッチペダルである。つまり現代の車とはアクセルとブレーキのペダルが逆なのである。そして、ブレーキはギアボックスからリアアクスルに動力を伝達するプロペラシャフトに備えられている。4輪に対してひとつのブレーキしかない。もちろん制動力は極端に乏しい。だだ、彼はそのような“乗りにくい車”に魅了されてしまったのだ。この後に入手したのが、これまた操作方法の違うフォード・モデルTだ(新車でフランスに輸入された車両だが、これはまたの機会に紹介することにしよう)。
 
このタイプCは籐の傘立てとクラクソンのラッパホーンを備えている。駐車していると子供達がよってきて鳴らすため、オリジナルは取り外し、壊れても惜しくないものに交換している。これで3個目だという。子供達がこれを鳴らして喜ぶ顔を見るのが好きだとティエリーさんは笑う。そうしたことも含めてタイプCを気に入っている。実際に、撮影のためにガレージからシャン=シュル=マルヌ城へ行く途中でも、歩道から何度も声をかけられ、写真を撮られたりする。それに手を振り笑顔でティエリーさんは楽しそうに応える。


 
タイプC のトランスミッションは3段だ。ちょっとした登り坂にさしかかったとき、それが現代の車なら勾配すら気付かないほどでも、ギア比が離れているために、シフトダウンして、回転をあげて懸命に登っていく。「パリのモンマルトルの丘は無理だよ」と笑顔で話す。この車で一番注意しなければいけないのはブレーキだ。とにかく効かないのである。それと1速に入れるときは、まず2速を“舐めて”からシフトするというこつがある。タイプCを操るのが楽しくてしょうがないティエリーさんは、今年で定年を迎えるといい、その後はどっぷりと車趣味に時間を注いでいくそうだ。

写真、文:櫻井朋成 

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