フランスが誇る最高峰の車?!知られざる革新的な1台

PEUGEOT CITROEN JAPON


 
時は変わり、今ではシトロエン、プジョー、ルノーは、少量生産モデルを自社工場でなに不自由なく生産できるようになり、ユーリエのような企業から顧客が離れていった。そして、このショーカーが初めて披露されてから40 年が経った2012 年のル・マン・クラシックで開催されたオークションで、SM エスパスと数多くの残されていたヘリテッジコレクションを売り払った。この時、ユーリエのマネージングディレクターであったフランソワ・ド・ガイヤールはこう語っている。「私たちは新たに航空市場に参入するための資金を作ろうと、車を売ることにしました」と。
 
私たち『Octane 』取材班は、このオークションを前にして、SM エスパスに短時間ながら試乗する機会が与えられた。その時の印象を記しておこう。
 
特製のルーフパネル自体はほとんど見えず、市販モデルのSMとの細かな違いを楽しめるのは中に入ってからだ。ルーフパネルには独創的なパターンが施され、複数の円形のライトによりやわらかく照らされる。ルーフと窓に追加された開閉部では、航空機のような形状が際立つ。 

どんなSM でも始動させるのはとにかく楽しい。この特別な一台ならば、ルーフを格納すればなおのことだ。パリでのネズミ事件に似た問題もあり、ユーリエのエンジニアは最初、システムをうまく稼働させることができなかった。セルモーターが回り3 基のウェバーが燃料補充に時間をかける中、縦置きV 型6 気筒エンジンが唸るようなオフビートで重々しく動き、エンジンは果敢に回転を始めた。ギアボックスがエンジンの前方に置かれていることでシフトリンケージは長いが、それにもかかわらず軽いアクションでギアを選べるのは本当に快感だ。


 
まずは、ハイドロニューマチック・サスペンションがSM の最低地上高を正しい位置にゆっくり押し上げるのを待ってから、走り出す。シトロエニストにとっては優雅なドライブである。しかし他のドライバーにとっては、この知的かつ感度の高い制御に慣れるのに少し時間が必要だ。極めてクイックで可変アシストされるステアリング、力強く感度の高いブレーキ、優秀なギアチェンジなどにより、コツを掴んでいる者にはとても愛され、そうでない者は皆困惑してしまう。これらの特徴は、エスパスも他のSMと変わらない。
 
そのパフォーマンスは、GTカーのフィールをしっかりと味わえる。張り詰めているときは俊敏さを見せ、ねたましいほどの上品さで法定速度を大幅に上回ることもできる。しかし、本当に驚かされるのはそのハンドリングのレベルだ。繰り返しになるが、最大の個性である大きなロール角に慣れ、コーナーの曲がり方を習得すれば、もう止まる気にはならないだろう。
 
ユーリエのオープントップSMには愛すべき部分が多く、批判すべき点があまりない。こういった車が好きなら、ハイスピードで髪に風を感じながらツーリングをすることが魅惑的に思えるだろう。エスパスに対して悪い出来事が何度も同時に起きたことは残念でならない。それらがなければ、シャプロンのオペラやミロードと共に、フランスが誇る最高峰の車になっていただろう。

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo. ) Transcreation: Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:BE-TWEEN Translation: BE-TWEEN Words: Keith Adams Photography: Paul Harmer

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