2台のフェラーリ ディーノを乗り比べる│曲線美か?パワーか?

Photography Matthew Howell 

今やフェラーリの中で最も高い人気を誇るディーノ246GT。一方、後継の308GT4の価格はその6分の1に留まる。最大の原因はルックスだ。では、走りはどうだろうか。2台に試乗して確かめた。

ピニンファリーナがデザインしたディーノ206GTは、フェラーリ初の比較的低コストのスポーツカーとして誕生した。ブランド名の“ディーノ”は、1956年に夭折したエンツォ・フェラーリの息子、アルフレードの愛称である。206GTはアルミニウム製ボディで2.0リッターの6気筒エンジンを搭載、1968、69年にわずか157台が造られた。続いて登場した246GTはスチール製ボディだが、排気量は2.4リッターに拡大し、パワーとトルクも向上。マラネロが造り上げた名車の中でも、特に美しく完成度の高いモデルと評価されており、フェラーリ・コレクターの垂涎の的だ。

人気が高いのも当然である。これほどの曲線美はピニンファリーナにしか成し得ない。低く引き締まったその姿を見るだけで、正確無比な鋭いレスポンスがまざまざと想像できる。外観だけではない。現在ではどのメーカーもスポーツカーを軽量で扱いやすいサイズにシフトしているが、1960年代に生まれたディーノは、まさにそれを先取りしていた。試乗した鮮やかなジャッロ・フライの246GTは、特に人気の高い“チェア&フレア”仕様で、そのうちわずか12台の右ハンドルである。極小の繊細なハンドルでドアを開け、低く開放感のあるコクピットに乗り込む。キーをひねると小型のV6が咆哮と共に目覚めた。あの細いクロームのシフトレバーをグッと動かし、1速へ入れる。



速度が上がるにつれて、エンジンとギアボックスが完全にホイールベース内に収まっていることを実感した。ステアリングを切り始めると初めは反応が鈍いのでアンダーステアを覚悟するが、すぐにフロントが食いついて、ズバッと正確にコーナーを抜けられるのだ。
一方、レース育ちのV6はレッドラインに向けて勢いよく吹け上がり、そのサウンドを聞くために、ついシフトアップを先延ばししたくなる。ギアは少々入りにくく、回転数を合わせる必要もあるが、シャシーもブレーキも秀逸だ。これで、あともう少しパワーがあれば完璧なのだが…。

それを叶えたのが後継の308GT4である。DOHCの3.0リッターV8エンジンを搭載し、パワーとトルクが向上。しかし、命運を分けたのがルックスだった。官能的な246の後継を、なぜ308GT4のように硬い直線的なデザインにしたのかと思う人もいるだろう。ベルトーネのマルチェロ・ガンディーニは、246のシャシーに前後2席をパッケージングし、しかも拡大したV8をミッドシップに収めなければならなかった。

とはいえ今あらためて308GT4を見ると、いかにも1970年代らしい独特の魅力を感じる。そのラインはすっきりと明快で、全体のバランスもいいし、細いピラーや広いグラスエリアも246よりモダンだ。しかも後席があり、車内空間も広い。308GT4は3000台が製造され、フェラーリのベストセラーとなった。



フェラーリ・クラシケUKのトニー・ウィリスは、当時についてこう話す。「308GT4は時代の寵児で、私もずいぶんドライブしました。ディーノ246よりハンドリングが優れ、はるかに実用的です。私は、働いていたディーラーから308GT4を1台借りて、よくヒルクライムに行ったものです」

308GT4は1976年から、ディーノではなくフェラーリのバッジを付けるようになった。試乗した1979年製ロッソ・コルサの1台もそうだ。V8エンジンを始動すると、4本のテールパイプから轟音が上がった。クランクシャフトがフラットプレーンだから、アメリカ車のドロドロといった音ではなく、硬質なマラネロならではのサウンドである。走り始めるとすぐに308GT4の魅力が分かった。視界は抜群だし、エンジンの拡大でトルクも太い。ホイールベースの延長でステアリングは多少スローになったが、その乗り心地には舌を巻いた。驚くほどしなやかなのに、カミソリのようにシャープなレスポンスも兼ね備える。まさに最高のドライバーズカーだ。

246GTと308GT4は、どちらも素晴らしいスポーツカーで、真のフェラーリのダイナミクスを楽しめる。ところがディーノ246の価格がクラシックカー全体の中でもトップクラスの速さで上昇しているのに対して、308GT4はクラシック・フェラーリの中で最も低い価格帯に留まっている。ピニンファリーナのディーノは、ベルトーネのディーノをルックスで上回り、だからこそどんなフェラーリ・コレクターも欲しがるのだ。とはいえ、とびきり美しい246GTがいつまでたっても“ディーノ”である一方で、308GT4はこれからも永遠に“フェラーリ”である。あなたなら、どちらを選ぶだろうか。

Words Robert Coucher

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