スター誕生│スティーヴ・マックイーンと共演した本物のフェラーリ 前編

Photography: Jerry Wyszatycki

10台しか作られなかった275GTS/4NARTの1台というだけでとんでもないことだが、このスパイダーはそれだけではない。あの映画でスティーヴ・マックイーンと共演した本物のスターなのである。

その車は最も美しいフェラーリとして世界に認められている。275NARTスパイダーは文句なしに美しく、名作映画に登場するのも当然と思われるが、そのうえさらにNART(ノースアメリカンレーシングチーム)のDNAを備えており、サーキットでも大活躍した。
 
275GTBと4カムの275GTB / 4 ベルリネッタは、シャープなピニンファリーナ・デザインで人気を博したが、それに続いたソフトトップの275GTS は、見た目がおとなしすぎるとして不満を抱いた人が少なくなかった。フェラーリのアメリカのインポーターにしてNART(ノースアメリカンレーシングチーム)の創設者である、イタリア生まれのルイジ・キネッティもそのひとりだった。フェラーリ創業の頃からのエンツォの盟友だった彼は、250カリフォルニアの後を継ぐもっと魅力的なスパイダーを顧客に提供したいと切望していた。
 
そんな要望に応えたワンオフのスペシャルモデルが、有名な「ネンボ(Nembo)・スパイダー」である。モデナのジョルジョ・ネリとルチアーノ・ボナチーニが米国人デザイナーのトム・ミードの協力の下、イタリア人のセルジオ・ブライディのために作り上げたスパイダーである。ブライディの希望は、簡単に言えば「250GTO 64スパイダー」だった。長く流麗なボディと、250LMのものを利用した大きく傾斜したウィンドシールドを備えた「ネンボ」はきわめて魅力的だった。それはまた、ディズニーの作品に登場して予想外の反響を呼んだ。デートに急ぐキツネが運転するスパイダーが、カーブに沿って蛇のように曲がるというあのシーンである。

キネッティはそれを見て自信を深め、フェラーリに25台のスパイダー、そう、後にNARTスパイダーとして有名になる車を製作する許可を求めた。

彼のアイディアはシンプルだった。「ベルリネッタの屋根を取り去ってしまえばいい」と考えたのである。クーペからの改造作業は、当時フェラーリと密接な関係にあったセルジオ・スカリエッティのカロッツェリアに依頼、キネッティは米国内で発表する前にその代金を払うと伝えたらしい。


 
スカリエッティの仕事は素晴らしいものだった。ベルリネッタのボディは予め運命づけられていたように、自由奔放で美しい、まさしくカリフォルニア・スパイダーの完璧な後継モデルに生まれ変わったのである。ところが、実際に購入すると手を上げた人は驚くほど少なく、結局たった10台しか作られなかった。
 
ここに紹介するスパイダーはそのうちの1台だ。しかも、シャシーNo.09437は最初の1台で、後に映画「トーマス・クラウン・アフェア」(邦題:華麗なる賭け)の中で、スティーヴ・マックイーンとフェイ・ダナウェイと共演したことで有名になった車そのものである。ちなみにこの最初のNARTスパイダーと次の1台のみはアルミボディ、残りはスチールボディである。

編集翻訳:高平高輝 Transcreation: Koki TAKAHIRA Words: Marc Sonnery 

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