スター誕生│スティーヴ・マックイーンと共演した本物のフェラーリ 後編

Photography: Jerry Wyszatycki

10台しか作られなかった275GTS/4NARTの1台というだけでとんでもないことだが、このスパイダーはそれだけではない。あの映画でスティーヴ・マックイーンと共演した本物のスターなのである。後編
 
セブリングの後に、思いがけなくスパイダーが一躍有名になるチャンスが舞い込んだ。スパイダーを見かけた映画会社の役員がキネッティに連絡してきたのである。彼はその春にボストンで撮影される予定のロマンス大作の絶好の宣伝になると考えたのだった。『トーマス・クラウン・アフェア』の監督はノーマン・ジュイソン、主演は37歳のスティーヴ・マックイーンと、ウォーレン・ベイティと共演して大ヒットした『ボニー&クライド(俺たちに明日はない)』を受けて指名された銀幕の女神フェイ・ダナウェイだった。マックイーンは彼が共演した中で最高の女優としてダナウェイを挙げており、いっぽうのダナウェイは、その映画が本当の映画スターと共演した初めての機会だったと語っている。
 


コルソンは昔話を続けた。「セブリングの後、映画会社はキネッティに車をワインレッドに塗り替えてほしいと依頼してきた。その映画にはその色でなければならないと言うんだ。私自身がボストンまで運転して映画会社のスタッフが滞在していたホテルまで届けた。マックイーンがロビーでスタッフとミーティングしていたのを見かけたよ」
 
映画に登場したことでこのスパイダーは一躍有名になったものの、実際に映画の中で運転されることはなかった。その代りに魅力的なブロンドのフェイ・ダナウェイ演じる探偵のヴィッキー・アンダーソンが乗る車として扱われた。ダナウェイは銀行強盗の容疑者であるトーマス・クラウンを執拗に追い詰める役どころで、マックイーン演じるところのクラウンは、表面的には上品で紳士的なボストンの銀行家だった。 

ただスリルを味わうための恐ろしく巧妙な犯罪に手を染めたクラウンは、彼の犯行を確信しているアンダーソンの罠にかかる。スパイダーは最初にポロの試合で登場する。彼女はトノーカバーに腰かけて8mmカメラで彼の姿を撮影して、クラウンの注意を引くことに成功する。そのすぐ後、ボストン中心部のオークションハウスの外に駐車しているスパイダーをクラウンが眺めるシーンが映るが、登場場面はそれだけである。
 
それぞれに別の顔を持つクラウンとアンダーソンのロマンチックなやりとりが映画の主な内容だが、この作品がさらに忘れがたいものとなったのは、ミシェル・ルグランによる最高の音楽に支えられていたからだ。ルグランは、カトリーヌ・ドヌーヴ主演のミュージカル『ロシュフォールの恋人たち』や『シェルブールの雨傘』で既に素晴らしい才能を証明していた。残念なことに、つい先日亡くなったルグランがアラン・バーグマンと共同で作曲した『Windmills of Your Mind(風のささやき)』は、この映画をこの世代の傑作として評価されることに一役買ったことは間違いない。ちなみに、この映画はルグランにとって最初のハリウッド進出作であり、彼はこの作品でアカデミー歌曲賞を受賞している。

編集翻訳:高平高輝 Transcreation: Koki TAKAHIRA Words: Marc Sonnery 

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