スター誕生│スティーヴ・マックイーンと共演した本物のフェラーリ 後編

Photography: Jerry Wyszatycki


 
素晴らしい天気の下、コネチカットのライムロックでドライバーズシートに座っているのは、フェイ・ダナウェイとダンスするのと同じぐらい現実とはかけ離れているように思えた。オープンのジャガーEタイプのように、シート位置は高めで、身体が剥き出しになっているように感じる。飾り気のないフラットなフロアのコクピット、簡潔なダッシュボードは、美しいボディとともに私を駆り立てる。例によって根元にゲートを備えたシフトレバーは正確で慎重な操作を促し、エンジンは絹のような感触を伝えてくる。この車のエンジンは、これまで私が乗ったどの4カム・フェラーリよりもさらにパワフルに感じられた。
 
ペダルもステアリングも軽く、ボディの挙動も現代の標準から見ても大きすぎることはない。それらのおかげでNARTスパイダーは扱いやすく、1日中乗っていても問題ないと感じられた。可愛らしいニューイングランドの学園都市をゆっくりと流し、子供たちを追い越す。彼らが生まれる何十年も前に誕生したスパイダーを見てどう思っているだろうか? 



牧草地と森の中へ入ると、道が急に開けてきた。真の実力を呼び起こし、獣のような叫びを楽しみながら地平線に向かって加速する時である。このサウンドにはミシェル・ルグランも敵わないだろう。NARTスパイダーが放つオーラは想像以上のものだった。何しろ50 年以上前にダナウェイが腰かけているのを初めて見てからの夢が現実になっているのだ。
 
このような伝説的な役割を果たした車は他にほとんど存在しない。このスパイダーは、クールなスターと冷静非情な女神のキスを印象付けただけでなく、映画と芸術形式としての車の関係を確固たるものにしたのである。「さあ、ヴィッキー、僕が運転するよ。海辺の別荘が待っている」
 
もちろん、デニースとピンキーが輝くようなイエローのスパイダーに乗ってセブリングで成し遂げたことも、スプリットスクリーンのもうひとつの映像として忘れられることはない。

編集翻訳:高平高輝 Transcreation: Koki TAKAHIRA Words: Marc Sonnery 

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