派手なクラッシュで果たせなかったル・マン出場の夢 26R 後編

Photography:Paul Harmerv


 
グッドウッドのピットレーンで太陽の光を受けてキラキラと輝いているIWRクーペはとても印象的だった。ストレットンが入念に整備を終えると、いよいよ我々の試乗する時間がやってきた。コースに出てゆっくりと車を進める。室内を見れば内装材などまったくなく、室内の全面に金属が露出していることに気がついた。マジウィック・コーナーに向けて4段のクロースレシオのギアボックスを操作していくと、小さなマシーンが息を吐くかのようなシューという音が狭いコクピットに響き渡る。まるで26Rがスズメバチになったかのようだ。迫ってくる複合コーナーに備えてシフトダウンするとノイズが急激に高まった。しかし不快になるほどではない。ひとつめのアペックスの左側に1m残したあたりに狙いをつけてパワーオン。ラインをきれいに保ったままふたつめに。心にとめておいた26Rへの世の評判どおり、この時点ではとても運転しやすい。扱いにくいということは一切なかった。ここまでは。
 
フォード・ウォーターを過ぎると個人的に苦手なコーナーが迫ってくる。それはセント・メリーのひとつ手前の名もないコーナーなのだが、やはりこの日もやってしまった。ホイールを軽く打ってしまい、クーペは姿勢を乱した。うわっ、どうなるんだ。だがセント・メリーに到達したときには騒ぎも収まり、意図していたとおりにセント・メリーを抜けることができた。ラヴァントでも速度を落とすことなく通り抜けると長いストレート、そしてウッドコート・コーナー手前でハードブレーキング。こんな調子で1周を追えた。
 
IWRクーペとかつて私が所有していたストックのエランはどう違ったのか。正確に比べたわけではないが、言えるのは26R は私をよりいっそう楽しませてくれたということである。多くの部分はさほど変わらないのだが、鋭敏さこそが決定的に違うのである。IWRクーペはバラスト込みで580kg そこそこの重量しかないので動きはもちろんシュアだ。だがその軽さゆえに限界時の26Rは踊り上がるかのような動きをすることもあった。そういうときはボディからのノイズが高まるのと同時にボディの先端が曲がって、あたかも気球を操縦しているかのような感覚に襲われるのだ。それはたぶんアルミのボディがシャシーと繋がる部分に施された特殊な金属加工が、バックボーン・シャシーとの間でナイフエッジのように働いて鋭敏な感覚をドライバーに伝えるからだと思われる。

編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words:James Elliott 

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