ひと巡りして再びやってきたアナログなくつろぎ感

Words& Photography:Kazuhiro NANYO

工事だらけのパリ市内を頼もしく走る、“らしい”乗り心地。欧州仕様ではADAS関係を装備しない潔さ。使い勝手のよい心地いいインテリア。そんな"シティコミューター的ハッチバックの背高バージョン"。

時々「SUVなのに4WDじゃない」と、目くじらを立てる声もあるが、近頃の欧州コンパクトSUVは日本のトール軽自動車と同じく、元々シティコミューター的ハッチバックの背高バージョンとして成立しているところがある。デザインもあくまでSUV ルックというか、最初から「SUVのパロディ」であることを狙っているので、本気の泥遊びヨンクと同じ立ち位置で眺められることをあらかじめ拒否した存在なのだ。


 
この諧謔(かいぎゃく)が分からない、ぶっちゃけユーモアのない人には、シトロエンC3エアクロスは難しいと映る。市街地とはいえあらゆる種類の工事に事欠かないパリの路上で、泥ハネを浴びたC3エアクロスの佇まいは俄然、頼もしい。シトロエンは好んでbaroudeur(バルードゥール。好戦的な、という意味)と形容するものの、筋肉やワイルドフェロモンを見せびらかすタイプとは違う、つまりはそういうスタンスなのだ。
 
加えてC3 エアクロスには、仕上げのよいインテリアという美点がある。というのも、日本には未導入だったC3 ピカソの後継車種としてモノスペースからの乗り換え顧客のために、ルーミーで居心地のよい室内空間は必須だったのだ。
 
今回試乗したのはガソリンの3気筒1.2リッターターボ、ピュアテック110ps S&S(アイドリングストップ機構)にアイシンAW製6段AT というお馴染みのパワートレインに「シャイン」という上級トリム仕様。ヘッドアップディスプレイを採用してダッシュボードセンターの手元にグリップコントロールが備わるなど、ハッチバックのC3より一見ハードに見えるが、シートファブリックの表面はメッシュ仕上げの立体的な触感で、ダッシュボードに張られた同色の柔らかなパッドといい、触感上では優しく包み込むようなタッチが効いている。何より蛍光オレンジのアクセントもいい。



フロアシフトの奥には、スマホ置き場として非接触式充電トレイも備わっており、モダンコンフォートにこだわった内装といえる。ちなみにデザインがいいというは易しだが、ドイツ車のようにボタンを多く配したり、日本車のように凝った意匠を採り入れるのではなく、乗員の腕や手指の関節の可動範囲内にできるだけ操作系を収めた、使い勝手のいいエルゴノミーは良質のフランス車の独壇場だ。
 
フロント側が突っ張らず自然なロール感と軽快なハンドリングは、日本でも大ヒットしたハッチバックのC3に通じるところはある。ただルーフが高くなっている分、多少のもっさり感はあるし、高速巡航では空気抵抗も大きい分、130km/hでは風切り音も感じられ、アクセルを緩めるとエアブレーキでも効いたかというほど速度が落ちるし、瞬間燃費も改善される。ただしこれはフランスの制限速度での話で、110㎞/h程度巡航なら至って平和だし、あらゆる速度域で突き上げを丸め込むフラットな乗り心地が持続する辺りは、さすがシトロエンと思わせる。



欧州仕様ではADAS関連はアクティブセーフティブレーキはあるが、ACC もレーンキープはなし。すべて警告機能のみに留まる点が、逆に潔い。ようは車に任せていいものは、例えレベル2を装備していたところで、何もないのだから。逆に街中でのスタート&ストップのマナーには優れている。

 
このひと巡りして再びやってきたようなアナログなくつろぎ感こそが、2CVに連なるシトロエン大衆車の特長。そこがポジティブに感じられる人には代わりの効かない一台だ。

シトロエン C3 エアクロス(※欧州仕様)
ボディサイズ:4155×1765×1597 ( 1630 )mm ホイールベース:2604 mm 駆動方式:FF 乾燥重量:1203 kg 変速機:6段AT エンジン形式: 直列3気筒直噴ターボ 排気量:1199 cc 最高出力:110 ps/ 5500 rpm 最大トルク:205 Nm/ 1500 rpm 0 -100 km/h 加速:10 . 6秒

文、写真:南陽一浩 Words& Photography:Kazuhiro NANYO

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