真に使える現代的スーパーカーを目指して│ヌッチオ・ベルトーネの継承

Photography Mark Dixon

1970年にベルトーネが発表したストラトス・ゼロは、コンセプトカーの傑作として高い評価を受けている。写真はその精神を継承した新たなコンセプトカーで、ベルトーネの創業100周年を記念して2012年に発表された。2代目経営者の名を取って、“ヌッチオ”と名付けられている。

デザインしたアメリカ人のマイケル・ロビンソン(現在は独立)は、子どもの頃にストラトス・ゼロの写真を見てデザイナーを志したと話す。「あれから何年ものちに、こうして傑作を再解釈する機会を得たわけです。ヌッチオでは、人をあっといわせるという重要な要素を残しつつ、真に使える現代的スーパーカーを目指しました」

フロントウィンドウがドアを兼ねていたストラトス・ゼロと違い、ヌッチオには通常のドアがある。ルーフには、現代建築を手本に、テントのような張力構造を採用した。今後はこうした構造が量産車でも当たり前になるとロビンソンは話す。照明にも新機軸がある。ブレーキペダルを踏む強さに応じて、フロントのデイタイムライトの明るさが変化するのだ。何より目を引くのが色だろう。オレンジはヌッチオ・ベルトーネが最も好んだ色で、創造性の源と呼ぶこともあった。



車内はいたって現実的かつ快適だ。後方視界は26インチのリアビューモニターが頼りである。深呼吸をして、センターコンソールの赤いスターターボタンを押す。すると高らかなファンファーレに包み込まれた。大きな声ではいえないが、ドナーとなったのはフェラーリF430だ。それよりエンジン音が大きいのは間違いないものの、走りの印象は想像通りドナーそのものだった。しかし、量産車には決して真似のできない特別感がある。ヌッチオは単なる車ではない。これはもはや“イベント”だ。

この車に魅了される人もいれば、当惑を覚える人もいるだろう。それはストラトス・ゼロが発表された当時も同じだった。残念ながらベルトーネは2014年にその歴史を閉じたが、ヌッチオの評価が決まるのはこれからである。

Words Richard Heseltine  抄訳:木下恵

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