英国製高級車の芳しき香り│コノリーが歩んできた140年の歴史


 
コノリー・レザーの使用が当たり前であったかつての英国製高級車の室内には、一種独特の香りがあった。これは多くその素材から発せられ、コノリー・レザー独特のベジタブル・トリートメントによるものだ。ベジタブル・トリートメントとは鞣し工程のひとつで、トライヴァレント・クロミウムという無機物質を使う1回目のクローム・タンニングの後、ミモザの樹皮やシクンシ科のミロバランの実など、有機物を使って行う。ただ近年はあの芳しい香りも顧客やマーケットによっては必ずしも歓迎されないらしく、新車のドアを開けてもかつてほど香らなくなってしまったのは、個人的にはちょっと寂しい。

トリートメントの話が出たところで、コノリーレザーの作り方をちょっとおさらいしてみよう。北欧から調達された原皮は保存用の塩分や脂肪、毛をライムと硫化物の溶液で分解した後、専用のマシーナリーで削り取る。

銀面と床革に分け、銀面のみがコノリーレザーとなる。クローム・タンニン、ベジタブル・タンニンを経て染め、必要に応じてメーカー指定のエンボス加工を行う。この間要する時間は、1960年代までは手作業で約半年も要していたが、1990年代にはマシンの発達により2週間ほどに短縮された。


 
現在はプロダクションモデルへの素材の供給は行わず、もっぱらスペシャルモデルやレストア用の素材の供給に特化しているコノリー社だが、この鞣しのプロセスは一切変えていないという。このことは特に、新車時と同様の素材を使いたいという正統派のレストアラーやオーナーにとっては嬉しいことに違いない。
 
専ら素材業者としてトップクラスの皮革を供給してきたコノリー社が、自社の皮革を用いた革小物ビジネスに参入したのは1995年のことだ。ハイドパーク・コーナーの聖ジョージ病院 ( 現レインズボロ・ホテル) 裏のグロブナー・クレッセント・ミューズに、アンドレ・プットマンデザインが手掛けた店舗をオープンした。この後、2000年にジョセフの創業者ジョン・エッティギィが営業権を取得、店を繁華街リージェント・ストリート近くのコンデュート・ストリートに移転しアパレルに進出するも、ジョセフが2010年に死去。その後数年を経て、ジョンの妻のイザベルが、2016年にサヴィルロウに近いクリフォード・ストリートに店を再開。合わせてレザー小物やトラベルグッズをディレクションする。

文:小石原 耕作 写真:コノリー Words: Kosaku KOISHIHARA (Ursus Page Makers) Photography: Connolly

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