唯一無二のベントレー The world of Mulliner

Bentley motors

ベントレーの試乗記を雑誌やウェブの記事で読んだり、ブランドのホームページをチェックしたり、はたまたベントレーディーラーでセールスマンと話す機会があるならば「マリナー」という言葉が頻繁に使われていることに気づくのではないだろうか。

マリナーとは、現在ではベントレーモーターズのビスポーク(特別注文生産)を担当する部署であり、その歴史はベントレー本体よりはるかに古い1500年代まで遡る。ベントレーはそんな特別生産部隊をメーカーの中に持つ、類まれなメーカーなのである。

マリナーは1559年、馬具工房としてスタートする。1760年には英国の郵便局にあたる「ロイヤルメール」の馬車の製作を一気に担い、ビジネスを拡大する。しかし1900年代に入ってくると主力の移動手段は馬車から自動車へと移り、これまで馬車の製作で培ってきた技術力を自動車のボディや内装の作製に大きく方向転換することになった。
 
このようなボディの架装会社にエンジンの付いたシャシーを持ち込み、顧客の好みでボディを作って納車するということが当時は一般的だった。マリナーの他にも、パークウォード、ジェイムス・ヤング、フーパー、グレイバー、フラネイなどという名前も聞いたことがあるかもしれない。これらはすべてボディ、インテリアを手掛けるコーチビルダーである。
 
ベントレーでいえば、1920 年代の3リッターにもマリナー製のボディが付いた車があるが、最も有名なのは本誌でも紹介されている1952年のRタイプ・コンチネンタルではないだろうか。あの美しいボディの曲線は経験豊かな職人の手作業でしか生み出せない美しさである。その他にも、現在エリザベス女王陛下がお乗りになっているステートリムジンもマリナーでコーチビルドされた車である。
 
1959年に当時のロールス・ロイス&ベントレー モーターズはマリナーを買収し、オフィスをクルー工場の中に置くこととなる。現在でもマリナー部門はクルー工場の中にあり、クラフトマンやエンジニアを含む約60名のスタッフが年間で約200台の特別仕様の車両を生産している。なかには40年を超えてクラフトマンとして勤めている人達もおり、これまで培ってきた技術も彼らによって伝承されている。
 
マリナーでは4つのレベルで商品を提供している。まず第1は装備品の開発。これは最近でいえばドアミラーの下を照らすLEDウェルカムライトやミュルザンヌなどに搭載できるワインクーラーなどが相当する。またストーンベニアなどの新素材の開発なども行う。
 
次に限定車。本社主導の限定モデルの生産で言えば今年は100周年を記念した限定車が3種類発表された。日本限定車でもフライングスパーのストラトスエディションやコンチネンタルGTのムーンクラウドエディションなどは記憶に新しいのではないか。リージョンやディーラー、さらにはアフィニティブランドとのコラボモデルなども作っている。
 
さらに手の込んだ仕様は顧客の要望に応えるいわゆるビスポーク車の製作である。たとえばベントレーの100色を超えるカラーパレットの中でさえも希望の色が見つからない時は、オリジナルで色を調合しペイントすることができる。ウッドやレザーもしかりで、安全上の問題や法規に触れるようなカスタマイズでない限りは顧客の要望を受け入れる。最近では、特に素晴らしいウッドワークのデコレーションが目を見張る。何種類ものウッドを細かくコラージュし、風景や幾何学模様やクラシックカーなどを描く。そんなパネルが助手席のウッドパネルに刻まれていたらなんと素敵なことではないか。
 
最も手のかかる作業はコーチビルドと呼ばれる特装車の分野である。先述のエリザベス女王陛下のステートリムジンやストレッチ車両などが例に挙げられる。その他、過去には製氷機やゲーム機器、チョコレートクーラーを入れて欲しいといった要望もあったという。
 
このようにマリナーは顧客のあらゆる要望に応え、顧客に寄り添って考え、世界にひとつだけのベントレーを造りあげるための部門なのである。日本からはあまり大掛かりな注文はないと聞く。しかしながらヘッドレストにオリジナルの刺繍を入れたり、トレッドプレートに自分の名前を刻んだり、そんなことからも始められる。
 
時間とコストは掛かるが、あなたの無限の想像力とマリナーの伝承された技術力のどちらが勝つのか、勝負を挑んでみるのもいいかもしれない。

文:オクタン日本版編集部 Words: Octane Japan

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