ベントレー コンチネンタルSCの知られざる魅力を堪能するヨーロッパ横断

Photography: Martyn Goddard

イギリスの街中をタルガトップボディのベントレー・コンチネンタルSCで走ったところで、その魅力のすべては把握しきれない。ヨーロッパ横断を通して明かされたのは、真の妙味だった。

まだ夜が明けきらないなか、フェリーは雨が滴るフランス・カレーの港に到着した。ロンドンを出発した頃はめずらしく天気に恵まれ、幸先よいスタートを切れたと思ったばかりだった。ヨーロッパ横断でイメージしていたのは晴天のなか屋根を開けて、イギリスの寒い冬を忘れながら颯爽と駆け抜ける姿だった。しかし、向こう数日の天気予報は大雨⋯。
 
最終目的地は「コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ」が開催される、ヨーロッパ有数の高級リゾート、イタリアのコモ湖だった。そして、移動のともは、コレクターである友人が貸してくれた、仕上がったばかりのベントレー・コンチネンタルSCだった。正直、スポーツカー好きな筆者として、1990年代のロールス・ロイス/ベントレーにさほど興味を抱いたことはなかった。だが、コレクターの友人は"距離を走ればわかるから…"といって、筆者にキーを渡した。


 
コンチネンタルSCの"SC"はセダンカ・クーペ(Sedanca Coupé)の略で、1930年代のベントレーにもラインナップされていた、いわゆる"タルガトップ"である。コンチネンタルTをベースに開発されたコンチネンタルSCは72台しか生産されておらず、そのうち25台が右ハンドルだったという。

新車時価格は24万5000ポンドと当時は圧倒的に高額だった。デビューしたのは1998 年のパリ・サロンだ。ちょうど、VWがヴィッカースからロールス・ロイス/ベントレーを買収する頃だ。ロールス・ロイス/ベントレー最後のモデルとも呼べるし、VW傘下最初のベントレーともいえる。
 
今までピンと来なかった車両であることは認めつつも、たまにはこのようにレアで豪勢な車とドライブも悪くないなと思ったのも事実だ。「フランスを抜ける際にはワイナリーでも立ち寄って、広いトランクに気に入ったワインを買い占めよう」と閃いた。だが、広かったはずのトランクの3分の1は、ルーフを収めるために"潰れる"ことに気づかされた。
 
カレーから高速道路A26に乗り、進路を南東に進む。まだコンチネンタルSCの運転に慣れてはおらず、大雨にも見舞われていたので、とりあえずはゆっくり、安全に走ることにした。アラスの街に到着すると高速道路を降り、かつてロールス・ロイス/ベントレーがテストコース代わりに走っていた国道へ向かった。長い直線が多く、時がゆっくり流れる景色を満喫できる。制限速度が設けられているのだが、地元の農作業車や白いバンはお構いなしに飛ばしていく。周囲がどんなに飛ばそうと、コンチネンタルSCに乗っていると気にならないのは不思議だ。途中、ランス・シャンパーニュ自動車博物館に立ち寄り、コンチネンタルSCは駐車場で2時間ほど雨に打たれた。セダンカクーペゆえに水漏れを心配したが、杞憂に終わった。ランス・シャンパーニュ自動車博物館自体は、車好きにとっては癒しの空間だ。近くを立ち寄った際は、必ず訪れることをお勧めする。
 
ランスからはまた高速道路A26に乗り宿泊地、ブルゴーニュ・ワインの産地として有名なボーヌへ向かった。翌朝、周辺のサントーバンやガメを散策。ちなみにガメはボジョレーワインに用いられる葡萄が600年前に生まれた場所とされている。この辺りの道は狭いのだが、車幅が2060㎜にも達するコンチネンタルSCでも気にならなくなってきた。だいぶ、車に慣れてきたのかもしれない。そして、コンチネンタルSCの図太い低速トルクに魅力されてきたのだろう。どんな回転域でも、とめどもなく押し寄せるトルクがとにかく心地良い。

編集翻訳:古賀貴司(自動車王国)  Transcreation: Takashi KOGA (carkingdom) Words: Dale Drinnon 

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