ヨーロッパ文化遺産を祝う日に公開されたシトロエンコレクションの保管施設とは?

Photography:Tomonari SAKURAI

毎年9月の第三週の週末にヨーロッパ文化遺産の日(Journées Européennes du Patrimoine)が開催される。ヨーロッパ全土で一斉に行われるイベントで普段は公開されていないような歴史的建造物を含んでフランスだけでも1万5000カ所で見学できる日だ。その中のひとつ、Conservatory Citroën Heritage DS Heritageもこの日は一般公開される。

ここは、パリから北東にあるシャルル・ド・ゴール空港に近いオーネー=スー=ボア(Aulnay-sous-Bois)にあるシトロエンのコレクションを維持する施設である。シトロエン最初のモデルで、100年前に登場したシトロエンTypeAの1号車から2000年までの車両、300台余りがここに保管されているほか、デザインの段階で造られたモックアップなどシトロエンにとってまさに遺産となるモノがここに納められている。コンセルヴァトワールとはフランスで文化遺産を維持、管理する事を目的とした機関の意味であるのだ。


エントランスに置かれたDS。外観は工場の一部だったこともあり 倉庫というような殺風景なもの。
 
このヨーロッパ文化遺産の日にここがガイド付きで公開された。せっかくなのでプレスで撮影では無く、一人の訪問者としてツアーに参加してみた。日本人らしく指定された時間より前に現地に到着する。場所は、他の工場などが立ち並ぶ一角。実はこの工場地帯、2013年まではPSAのフランスでも2番目に大きな工場だったが閉鎖してしまった。コンセルヴァトワールのみ、この地に残された。建物自体は一般公開するためでもないので周りの工場と変わらない殺風景なものだ。


シトロエンKarinなどのプロトタイプもここに保管されている。

この日に合わせてDSが表に展示されているといった程度。受付を済まして開場まで並んで待つのだが、まだ少し余裕があるので併設されているショップを覗いてみた。そこにあるのはシトロエンのグッズやミニカー。それよりも気になるのはそのショップの周りに置かれた見るからにシトロエンに所以のある品々。シトロエンなのに砲弾が飾られているのに目を惹かれ、寄ってみた。すると大戦中は各企業が戦争のためのモノを造っていた中、シトロエンも例外ではなく、砲弾を造る機械を製造していたのだ。その機械と砲弾の模型が展示されていたということだ。


完成を目の前にしながら市販に至らなかったシトロエンのロータリーエンジンを積んだヘリコプター。

その時が来ると扉が開けられ、コレクションが並ぶ建物の中へと誘導された。20名ほどの来場者がガイドを務めるシトロエンのスタッフのもとに集まった。最初のモデルTypeAから順に解説が始まる。ちなみにTypeAはシリアルナンバー1と2を所有しており、1号車はこの日コルシカ島でのラリーに参加中だという。2号車は来場者の前でその歴史の生き証人として展示されていた。
 
シトロエンの広告と言う事ではエッフェル塔にシトロエンのロゴを照明を使ったモノが有名だ。1925年に行われたモノでエッフェル塔を広告塔として使った初めてのモノでもある。自動車メーカーとしては後発のシトロエンが最先端、最新へのこだわりはこういうところにも表れている。
 
フランスでもシトロエンという名は珍しい。アンドレ・シトロエンはどこから来たのか?両親はポルトガルから来たオランダ系の父とポーランドの母を持つユダヤ系の家族の元に生まれた。父の仕事はダイヤモンド商だが正規のルートだけの商売をしていたわけではなく、それなりに非合法の商売もしていたようだ。そのためフランスに移住する際にすでに手配されているかもしれないという恐れから名字を偽った。その時に以前レモンを扱った商売もしていたことから、レモンのフランス語シトロンをもじって付けた名字がシトロエンということになったという話がある。
 

今回のガイドを務めるシトロエンのアランさんによってツアーが始まる。TypeCを見ながらペダルの位置の違いやブレーキなど現代の車との違いを説明してくれている。

ガイドのアランさんの話し方も上手で引き込まれていくが、何よりもこの日にわざわざシトロエンのツアーに参加するだけの来場者はシトロエンの信者のようなオタクな人たちで、ツアーが進むにつれて慣れてきた頃には退場者からの質問や、アランさんの案内にさらに突っ込んだ解説を追加するなどかなりディープなツアーになってきて誰がガイドだかわからないようになってきた。話は盛り上がってガイドツアーをすっかり超えたものになっていた。
 
先日のフェルテ・ヴィダムで行われた100周年イベントで会場を走っていたシトロエンのバスType 23がここに置いてあり、それを見た来場者たちは5年がかりでできあがったそのバスに息を呑んで見入っていた。面白いことにこれだけシトロエンオタクなのに100周年のイベントに参加したのは僕だけだった(僕はオタクじゃないけど)。ただこのバスが廃車状態で発見されて、毎年2月のレトロモービルで"レストア進行中!"という案内が5年間あったのをみてみんな心待ちにしていたようだった。

ひとつお詫びしなければいけない。先日のシトロエン100周年のイベントで展示された3台の2CVのプロトタイプを”ミシュラン工場の改装の時に壁から出てきた3台”と紹介したがそれは間違いで、フェルテ・ヴィダムの敷地にあった納屋から出てきたモノであったと、ここでは発見から改修までの写真付きで解説されていた。言い訳をすると、100周年のイベントでこの3台を見たときにシトロエンのスタッフから聞いたのがミシュランから出た3台という事だったのでそのまま書いた。この場でお詫びと訂正をさせていただきたい。
 
およそ2時間ちょっとツアーだったが来場者の経験と知識もあり非常に濃いシトロエンにどっぷり浸かったものとなった。帰りにはもちろんお土産屋さんでいくつかのグッズを手に入れて帰ってきた。シトロエンはやっぱりフランス車であり、個性的で魅力的なブランドだと思わされた。それはこのヨーロッパ文化遺産を祝う日に最適なチョイスだったと思わずにいられないのだった。

文:櫻井朋成 words: Tomonari SAKURAI

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