長距離ドライブのためヴィンテージベントレーの魅力とは?後編

Photography: Tim Andrew


 
いや、実際はそんなことはない。数kmほど練習すれば(できれば車の助手席にオーナーがいない状況で)問題ない。しばらくあとには車に慣れ、車もあなたに慣れる。あなたは完全に無音でチェンジすることが、第二の天性になっている自分に気づくだろう。そしてもちろん、あなたはうぬぼれ始め、チェンジのタイミングを逃して止まらなければならなくなり、そして初めからやり直す⋯。たとえこの新しく組まれたエンジンのレヴリミットが2400rpmだとしても、難しいことはまったくない。なぜならエンジンは非常にトルキーで2200rpmで70mphに達するからだ。これはモディファイされたレイコックの電磁式オーバードライブのおかげだ。
 
ティムは慣らしが終わった段階では120mphぐらいになると推測している。加速した際にエンジンの存在を感じることができるかもしれないし、床面を通してわずかな振動を感知するかもしれないが、車自体はピシッとしていて、ガタガタした感は皆無だ。実際には、スピードは何より路面状況によって多く制約を受ける。この車は特製のアルミ合金製フリクションダンパーを、4.5リッターやワークスカーのように各所に一対で装着している。



しかし、これらの巨大なアクスルは路面の穴などに遭遇するとボロが出る。つまり注意していないとステアリングを取られる。幸い、比較的軽めのステアリング・フィールは保持する助けになる。ステアリングボックスのケースは3リッターのものだが、中身は4.5リッターのものなので、多少クイックさに欠けるが、操作は楽になる。さらに深くこの車の造りを掘り下げるなら、さらなる驚きがあるだろう。
 
まだブレーキについて語っていないが、それにはロッドオペレーションの代わりに油圧式を採用している。また、通常のユニバーサルジョイントによるモダンなプロペラシャフトの採用のほか、長距離ドライブの際にオーバードライブ機構がトラブルを起こした時のために、スペアのプロペラシャフトが床下に取り付けられるようになっている。また繊細な回線を保護するためにリレーは現代のものを取り付けた。そしてビンテージな雰囲気のストーンガードでうまく偽装した、アフターマーケットのシビエ製ヘッドランプ。オートヴァックの真空燃料システムに加えて、電磁ポンプを装備した大容量の17ガロン入りの燃料タンク。点検のためのハッチを追加することで、ギアボックスとディファレンシャルのオイルレベルチェックを容易にしている。そうした数々のアイデアの勝利だ。
 
最後に追加すべきものは自由と陽気さだろう。車が生き生きしていること、そしてあなたも。あなたは高い位置にあるドライバーズシートに座し、フレッシュエアに満たされて5.3リッターのゴボゴボいう排水管のようなセレナーデを聞く。その時あなたと地平線を隔てるものは小さなエアロスクリーンのみ⋯。


 
それはすべてのモータリングの楽しみを具体化したものだが、これを楽しく、軽々とドライブするのは一種のチャレンジだ。実はこのプロジェクトにはもうひとつ、ティムでさえ彼自身心を決めきれなかったモディファイが計画されていた。「私はニトロチューンも考えたんだ」と彼は告白した。

「そして大きな回り道をした。その道ではエキスパートの「NOS(ナイトラス・オキサイド・システム)の魔法使い」という会社とコンタクトしたんだ。彼らは、ヴィンティッジ・ベントレーのエンジンはニトロチューンに向いていると踏んだ。なぜなら強いボトムエンドと、比較的低い圧縮比、そしてそのモノブロック。つまりヘッドガスケットが吹き抜ける心配がない。しかし結局は、ヴィンテージ・ベントレーの世界には、そのための用意が整っているとは思われないという結論に達した。時期尚早ってわけだ。

編集翻訳:小石原耕作(Ursus Page Makers ) Transcreation: Kosaku KOISHIHARA( Ursus Page Makers) Words: Mark Dixon

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