ベントレーの本社兼工場を訪ねて│ゆったりと流れるワーキングスタイル

ロンドンからバーミンガムを抜けて北西に約170マイル。クルーの町並みから少し離れたところにベントレーの本社兼工場がある。クラシカルな中にもセンスあふれる建屋は、ヘリテージを大切にしながら未来を見据えたベントレーのブランドを象徴するようだ。

歴史ある建物を訪れたときに「時が止まったかのような印象」を得ることがある。それは、最盛期を遠く過ぎたその施設が往時の雰囲気を色濃く残しているときに使われる言葉だろう。

ベントレーのクルー工場も歴史ある建物だ。もともと航空機用エンジンを生産するため戦前に建造された施設だが、戦争が終わって平和が訪れるとベントレーがこの地でマークⅥの生産を開始する。これこそクルー工場が自動車生産設備として産声を上げた瞬間。ときに1946年だった。

そしてベントレーはいまもクルー工場で作り続けられている。したがって、その内部の"時"は止まってはいないが、かといって普通の自動車工場と同じ時間が流れているとも言い切れない。おそらく、クルー工場では「時の重みが異なっている」と説明するのがもっとも正しいのかもしれない。


 
普通の自動車工場と大きくおもむきが異なっている理由のひとつは、そこで働く人々が時間に追われている様子がなく、実にゆったりと、そしてていねいに作業を進めている点にある。そして機械工場にありがちな油の匂いが漂っているわけでもなく、耳をつんざくような騒音が響いているわけでもない。慌ただしさとは無縁の世界で、卓越した技量を備えたスタッフが手間ひま惜しまず作業に取り組む様子は、工場というよりは工房と称したほうが相応しい。
 
その最たる場所がレザー・ワークショップだ。ベントレーで用いられるレザーはすべてヨーロッパ北部で生産されたもの。この地域では牧場の境界線に有刺鉄線があまり使われないために革に傷がついていることが少ない。気温が低いために蚊に刺された痕が少ないことも、ヨーロッパ北部のレザー素材を用いる理由のひとつだ。


 
クルー工場には毎週3000頭分ほどのレザー素材が持ち込まれる。ちなみにコンチネンタルGTは1台で11〜12頭分、フライングスパーでは13〜14頭分、ミュルザンヌにいたっては16〜17頭分のレザーを用いる。なぜ、数字にバラツキがあるかといえば、いくら前述したヨーロッパ北部産の皮革でも、やはり傷が皆無とはいえないからだ。そこでレザー・ワークショップではまず熟練の検査員が傷のある部分にマーキングを行う。そしてこれを機械で読み取ったあと、製品として使える部分とそうでない部分をコンピューターが判別。

これに応じ、もっとも無駄なくレザーを切り出すパターンをコンピューターが自動的に計算し、この結果に基づいてレザーは全自動でカットされていく。つまり、熟練の検査員と自動加工機が連携して最良のレザーを無駄なく切り出していくのだ。

文:大谷達也 Words:Tatsuya OTANI 写真:櫻井朋成、ベントレー モーターズ Photography:Tomonari SAKURAI , Bentley Motors

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