フランスで唯一残る老舗自転車ブティック│電動アシスト自転車が登場

Photography:Tomonari SAKURAI

自転車の宝石と呼ばれるアレックス・サンジェ。1938年創業のサンジェは2018年で80周年を迎えた 。第一次大戦後ハンガリーから移民してきたアレックス・サンジェ氏。元々サイクリストだった彼は、同じサイクリストの仲間とフランスでもサイクリングを楽しむようになる。決して裕福ではないので自転車を買うことが出来ない。だから自分たちで作った。その中でもサンジェ氏の作る自転車には定評があり、ブティックをパリの北、ルヴァロワにオープンしたのだ。ルヴァロワというと、シトロエンをはじめ車のメーカーやその部品、パーツメーカーも集まっていた地だ。  

まだまだ車がごく一部のお金持ちのモノだった時代。自転車での旅はフランス国内で大流行し 、シクロツーリズムというフランス独自の自転車文化が開花した。この当時の自転車屋というのは、メーカーの吊しの自転車を販売するのではなく、オーダーメイドが基本。乗る人の手足の長さから用途に合わせて、フレームのサイズや角度を決めていき一つ一つ作っていく。


1938年当時から変わらないブティック。

この時代は星の数ほど、そういったオーダーメイドの自転車メーカーがあった。彼らはあくまでもアマチュアサイクリストである。そのアマチュアリズムの中で色々な競技が開催されていた。  

例えば、ハンガリーからの移民のエルネスト・スューカがいた。彼の脚力はプロにも劣らないもので、アマチュア競技でサンジェに乗ったエルネストは何度も優勝を重ねていった。メーカーとしてのアレックス・サンジェはこの頃すでにトップメーカーとなっていた。元々体の弱かったアレックス・サンジェ氏は、このブティックをエルネストと弟のローランに譲った。この二人はさらに磨きをかけて、後に宝石と称えられる自転車ブランドを確立していったのであった。  


ブティックにはエルネストの乗った自転車や、自分たちの自転車を展示している。基本的にオーダーメイドなので吊しの商品はない。中古はあるがサイズが合うかなど中々悩ましい。

初期の彼らの作った自転車は、ブレーキも独自のパーツでフレームやフォークに直付けされた一点物。「ブレーキを買うお金が無かったからね」そういうのはエルネストの息子、オリビエ ・スューカ。現在のアレックス・サンジェのオーナーだ。すべて自分たちで作らなければいけなかった。それでも、そこには美学があったのだ。  

カーボン全盛の中で、今でもスチールバイクを作り続けている。「決して軽いわけではない。でも長距離乗ったときにスチールフレームの良さが分かる。万が一事故などに遭ってもスチールなら修正可能だから一生、あるいは次の世代でも乗れる」スチールフレームの自転車の魅力をオリビエは話してくれる。実際に、父親の自転車のサイズ直しをして、息子が受け継いでいると言う例がある。自動車やオートバイが気軽に買える時代の到来で自転車のブームは去り、昔からのブティックは遂にサンジェだけになってしまった。


2か月前に入ってきた新人のメカニックと電動自転車を組み上げていくオリビエ。

ここ数年の自転車ブームの再来で新しい、いわゆるフレームビルダーがあちこちで誕生している。新時代の自転車が生まれてきている。そんな中、 サンジェは基本を貫きながら時代に合わせながら、電動アシスト自転車を発表した。レトロ ・モービルの会場にもなる、パリのポルト・デ・ヴェルサイユの展示場で行われたサロン・ド・メ イド・イン・フランスの特別ブースで発表となった。サンジェの持つ美しい自転車のフォルムをそのままに、電動アシストという現代の自転車として登場した。バッテリーを含めても14.5kgに おさえている。

アシスト無しで走ったときにサンジェの乗り味がきちんとあり、必要なときにアシストを使うとその味を残しながら快適にすいすいと走ることが出来る。ほんの少しだが試したところ、アシストのかかり方が程よいのだ。まるで漕いでないくらい軽いのに、グイグイとスピ ードが上がるというのではなく、ほどよく抵抗がありしっかりと漕いでいる感覚がある。気がつくすっかり進んでいるのだ。なるほど、これなら自転車に乗り慣れている人が乗っても違和感なく乗れるし、何より楽しさがある。通りで、オリビエが予想以上に気に入っているわけだ。  


バッテリーはキーを使用してロックできる。取り外して充電。満タンの充電でどのくらい走ることが出来るか?それは使い方による。上り坂ばかり、例えばツールドフランスの山岳コースを攻めたとき、町中をゆっくりながすとき、普段はアシスト無し、時々使うだけ…様々な使い分けが出来る。一般的な使い方で50kmほどだという。

こちらも基本的にオーダーになるので、好きな色を選ぶことが出来る。フレームは二種類。トップチューブのある一般的なフレームと、ミキストと呼ばれる女性でも乗りやすいフランスのママチャリだ。どちらかのフレームを選んで、ハンドルのタイプを選んで荷台はどうするか?泥よけはどうするか?などと自分だけの一台をオーダー出来るのだ。


ミキストと呼ばれるいわゆるママチャリスタイル。女性でも乗りやすい 。


フレームに使われるパイプは英国のレイノルズ。自転車のパイプは接合部分はやや厚く、中間は薄くなっている。その薄さやテーパーの かかり具合でしなり方、重量が変わる。レイノルズはこのチューブの老舗であり、大戦中はスピットファイアなど航空機のフレームとなるチューブを製造。この手の自転車の中で伝説と言ってよいレイノルズ531。これは自転車用でありながらも、爆撃機にも使用された銘品だ。そんなレイノルズの525。クロモリ鋼のチューブで531を受け継いだ現代のスタンダードチューブ。それを使用している。

サンジェはこのレイノルズを使い続けている。伝統とテクノロジーを融合させ、フランス製にこだわってフランスのCAVALE社との提携で誕生した新世代のサンジェ。プジョー508、いや、新生アルピーヌと共にガレージに一台。自転車でなければ見られない風景に気軽に触れられるのが、このサンジェのアシスト自転車なのだ。

写真:櫻井朋成 Photography: Tomonari SAKURAI

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