愛するコレクションを販売する理由 CLASICAを訪ねて

コレクションのきっかけとなった1971 年いすゞ117 クー ペ。ジウジアーロデザインに 忠実なハンドメイドモデル、 クロモドラのホイール付だ

80年代の国産ネオクラシックを中心とした車を販売しているCLASICA、その展示車両の多くはオーナーが20数年かけて収集したコレクションである。愛する車のためにコレクションを販売することを決意したオーナー、そしてコレクションを支えているスタッフたちのストーリーをお届けしよう。

自動車において趣味と実用を兼ねる1台に出会えた人はその幸運に感謝するべきだ。多くの場合、趣味の車は実用性に乏しく、一方で実用的な車に趣味的要素を見出すこともなかなか難しい。だから自動車趣味の理想形の一つは複数所有である。
 
複数所有の最初のハードルは懐事情であることは間違いない。しかし、それを乗り越えてから本当の難しさ、愛車のコンディション維持という問題に直面する。エンジンの油膜を維持するため、タイヤやブッシュの変形を防ぐため、車は定期的に動かさなければならない。複数持ちたくなるような趣味の車ならなおさらだろう。世の中には不公平に満ち溢れているが、時間は誰に対しても等しく与えられている。コンディション維持のためには自分の時間を差し出すしかない。
 
今回ご紹介するCLASICA(クラシカ)は、そんな複数所有の夢を叶え、その難しさを経験したオーナーが経営している。そして販売用として並んでいる車の大半は自分のコレクションなのである。

手前のエスプリはまだ仕上げている途中、奥の412は貴重な右ハンドルだが販売済み。

今年4月にオープンしたばかりのCLASICAは、横浜・都筑に広がる港北ニュータウンのメインストリートの一つに面している。徒歩であれば市営地下鉄の仲町台駅から3分、車なら第三京浜の港北I.Cや都筑I.Cから5分ほど、東名高速の横浜青葉I.Cから10分くらいだ。

店内には10台少々の展示車両があった。ひときわ目をひくのはハンドメイドモデルの1971年117クーペ、他には1987年のRX-7(FC )、1988年の初代MR2 、1998年の2代目MR2などネオクラシックな国産スポーツカーが中心だが、メルセデス・ベンツW 124の500Eが2台、ジャガーEタイプ、ロータスエスプリ、売約済みではあるがフェラーリ412なども並んでいる。前述のようにこれらの車の大半がオーナーである上村氏のコレクションだ。

2台の500Eもオーナーのお気に入りだった車。手前が91年、奥が92年。

80年代前後のネオクラシックな国産クーペが展示車両の中心。
 
今もお店に展示されている117クーペを20年ほど前に手に入れてから、上村氏のコレクションは始まった。美しい車、特にクーペを中心に増え続けた愛車たちの多くは、同じ都筑にあるズームコレクションから購入した。

「上村さんは納車してからが大変でした。大のお得意様なので、そもそも程度の非常にいい車を選んでいるのですが、とにかく上村さんは音にうるさくて」と苦笑混じりにズームコレクションオーナーの駒田さんが語る。

「エンジンのメカニカルノイズはもちろん、排気音、ロードノイズ、きしみ音、果てはサスの伸び縮みの音まで、小さなことでも気になって直したくなる性分でね」と上村さんが横で笑う。
 
車に詳しい読者諸兄であれば、音の対策の難しさはご存知だろう。駒田さんは要望に応えるためにエンジン、補機類、内装、ダンパー、ブッシュなど徹底的に対策を重ねた。幸い、この港北ニュータウンは自動車整備のプロたちがたくさん店を構えるエリアだ。駒田さんは彼らの手も借りて上村さんの愛車を一台一台、長い時間をかけて仕上げていった。

ショールームに併設されたピット。専属メカニックはもともとコレクションのメンテナンスをしていた一人。
 
上村氏は健康食品関連の事業を本業としており、いまも日本全国を忙しく渡り歩いている。それゆえ愛車に乗る時間は限られ、コンディションの維持は難しくなってきた。だから大事に仕上げた車を売ることにした。

「車たちがかわいそうになってね。値段は相場より高く見えるかもしれないけれど、ここまで仕上げるのに掛かった費用を考えると本当は割に合わない。でも価値のわかる人に乗ってもらえればそれでいい。ただ、右ハンドルのフェラーリ412が売れた時は悲しくなってね。あれは数も少ないし手も掛けたし」と少し複雑な表情を浮かべた。その気持ちはわかる気もするが、仕方がないことだろう。

ショールームに飾られたホンダCB 750 Four K2も22歳のときに購入し、維持し続けた上村さんの愛機。
 
最後に当然の疑問を一つ尋ねた。コレクションが全て売れてしまったらどうするのかと。

「車屋を始めたのは、売れるまで好きな車に乗ることができるからということも理由です。コレクション以外にもまだ乗ってみたい車はたくさんあります。自分の好きな80年代のネオクラシックを中心に、気になるところはコレクション同様、徹底的に直してからお店に並べるつもりです。駒田さんもいることですし」
 
実は忙しい上村氏に代わって、CLASICAの運営をズームコレクションの駒田氏が手伝っている。常駐のメカニックはかつてコレクションの整備を行っていた腕利きの職人の一人だ。なるほど、それなら大丈夫だろう。コレクションという形ではないものの、上村氏の情熱と愛情が注がれた車なのだから。



CLASICA
住所:神奈川県横浜市都筑区

仲町台4-19-18コンドレア横浜Ⅱ 1F
営業時間:10:00~19:00
定休日:月曜
TEL:0120-77-2067
Mail:info@clasica.yokohama
HP:http://www.clasica.yokohama

文:馬弓良輔  写真:佐藤亮太 Words:Yoshisuke MAYUMI  Photography:Ryota SATO

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