ブランドの矜持を秘めたレクタンギュラー

19世紀のドイツの名時計師の名を冠し、時計作りの聖地グラスヒュッテの伝統を受け継ぐモリッツ・グロスマンから初のレクタンギュラー(角形)モデルが登場した。注目すべきは内蔵する角形ムーブメント。このモデルのため専用設計された稀少な個性派だ。そのこだわりにドイツブランドの矜持を漂わせるのである。

クラシックカーの魅力は語り切れないが、エンジンの味わいもそのひとつだろう。現代の車が効率や経済性を追求するあまり、置き忘れたのがエンジンそのものの醍醐味だ。直列やV 型などの型式や気筒数、レイアウトによってもそれぞれ個性は異なり、とりわけ水平対向はより独特でファンも多い。
 
低重心や低振動といったメリットから、安定感に優れ、まるで精密機械のような滑らかな回転が得られる。だがエンジンとしての優位性は高いものの、オイル循環や冷却効率、さらにメンテナンス性といった問題のほか、スペースを必要とすることから汎用性は低い。そのため現在ではポルシェ始め、世界でも2ブランドが採用するのみだ。
 
じつはこうしたエンジンへのこだわりは、時計愛好家のムーブメントに対する嗜好にも共通する。そのなかでも水平対向のような少数派であり、マニアックな人気で支持されるのが角形ムーブメントだ。そしてモリッツ・グロスマンは、ブランド初のレクタンギュラーに、この角形の自社ムーブメントを新たに専用開発したのである。
 
レクタンギュラーは、ラウンドに次ぐ時計ケースの代表的なフォルムであり、クラシカルでフォーマルな印象から人気が高い。そもそも時計の針が円運動をするのに対し、それを丸型ではなく、あえて角型に収めた独自性もあるのだろう。かつて懐中時計から発展し、腕時計が登場した黎明期、その嚆こうし矢となったのがレクタンギュラーであり、新世代の幕開けを告げる象徴でもあったのだ。
 
それは2008 年に誕生し、11 年目を迎えたモリッツ・グロスマンにとっても同じ思いだったに違いない。「コーナーストーン」というコレクション名は、建物の隅角部に置かれた石に由来し、今日では装飾的な位置づけとして、建物の落成日付や銘文が刻まれ、壁や床にはめ込まれる。まさにブランドのマイルストーンにふさわしいネーミングだ。さらに商品企画のきっかけとなったのが日本ブティックからの提案だたことから、4 つのコーナーを日本の四季になぞらえるとともに、ワールドプレミアの場も日本を選ぶという粋な計らいも込められている。
 
開発には3 年近い期間がかけられ、正面から見れば直線で構成された長方形も、側面には滑らかな曲線を備え、エレガンスを醸し出す。文字盤の外周をレイルウェイのミニッツトラックが取り巻き、ブランドのシンボルであるブラウンバイオレットの針(黒文字盤のみシルバー)に、スモールセコンドを備えたシンプルなフェイスだ。46.6mm(ラグを含む)×29.5mmという、ほど良いケースサイズも日本人の腕に馴染むだろう。バリエーションは以下の全5種類をラインナップする。
 
ローズゴールドのケースには、数字とバーを組み合わせたインデックスと、すべて数字インデックスを用いた二種類の白文字盤を用意。後者はグランフー・エナメル文字盤を採用した世界限定25 本のレアモデルだ。またホワイトゴールドのケースには、白文字盤に数字とバーを組み合わせたインデックス、黒文字盤には数字インデックスをあしらい、ローズゴールドケースと同様にグランフー・エナメル文字盤の世界25 本限定モデルもある。これ以外にもスモールセコンドの形状など細部の仕様に変化をつけ、まるでワンオフのモデルを選ぶような楽しみがある。


MG_001950 手巻き、RG(ローズゴールド)ケース。世界限定25本。420万円(税別)
MG_002142 手巻き、WG(ホワイトゴールド)ケース。世界限定25本。420万円(税別)
MG_002145 手巻き、RG(ローズゴールド)ケース。360万円(税別)
MG_002144 手巻き、WG(ホワイトゴールド)ケース。360万円(税別)
MG_001910 手巻き、WG(ホワイトゴールド)ケース。350万円(税別)

 
気品漂うレクタンギュラーは、正統派のドレスウォッチとして多くのブランドが揃える。しかしその大半が内蔵するのは丸型ムーブメントだ。理由は角形には専用設計が必要であり、そのためにはムーブメントまで自社で一貫製造できるマニュファクチュールか、相応のコストをかけなければならない。しかもそれだけ手間をかけても他のモデルとの共有もしづらい。そうした理由から専用の角形ムーブメントは、車における水平対向エンジンと同じように稀少であり、搭載するモデルも限られているのだ。
 
それだけにモリッツ・グロスマンが今回新たに開発したキャリバー102.3は価値があり、多くの時計愛好家が熱い注目を注ぐというのもうなずける。角形のスペースを効率良く生かし、大型の香箱を搭載することで60 時間以上のパワーリザーブを実現。リュウズ引きでスモールセコンドの針を止めるストップセコンド機能はバネを用いた新設計になった。グラスヒュッテの時計作りを継承する伝統の3分の2プレートには、ブランドの特徴である4本のリブ模様を装飾し、角穴車の3段のサンバースト仕上げとともに、美しい光沢が映える。
 
角形ケースにスッキリと納まったムーブメントはただそこにあるだけでも美しく、存在感を湛える。そしてまるでエンジンの鼓動を楽しむかのように、時を刻むムーブメントを愛でる愉悦は、クラシックカーマニアであれば理解できるはずだ。



問モリッツ・グロスマン ブティック TEL:03-5615-8185

文:柴田 充 Words:Mitsuru SHIBATA

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