名家の品格│ベントレー新型フライングスパー試乗

生まれ変わった3代目フライングスパーは、クーペが珍重されるというラグジュアリーカー界の定説を打ち破ろうとしているかのようにみえる。100年の歴史の中で、変わるもの、変わらないものは何なのか。モナコでの国際試乗会で見えてきたものは。



試乗途中のランチスポットにやってくると、大樹の陰でS1コンチネンタル・フライングスパーが羽根を休めていた。


 
ストレート6の4.9リッターエンジンを中に収めたボンネットは長大で、往年のベントレーが持つ流麗なプロポーションを描き出している。1958年に誕生した当時でさえ、このパワーユニットは1日中100mph(約160km/h)で走り続けられるほどのスタミナを備えていたという。レザーとウッドで埋め尽くされたインテリアは優雅さのなかにも落ち着いた品のよさを備えているが、電動式車高調整機構、リアウィンドウ・デフロスター、パワーウィンドウといった当時の"ハイテク"も装備されていた。

ランチスポットに飾られていたS1コンチネンタル・フライングスパー。かたわらに佇む男性はチーフデザイナーのステファン・ジラフ。
 
S1 コンチネンタル・フライングスパーとこの日試乗した最新モデルとの間には60年を越す歳月が横たわっている。だから、目に見える形での共通点はなきに等しいが、にもかかわらず、ベントレーが培ってきた歴史の重みは誕生したばかりのフライングスパーにも脈々と受け継がれているように思う。たとえば、新型のデザインは内外装ともにぜいたくかつ華やかではあるものの、それでもどこか控えめで品の良さが漂う。動力性能にしても最高速度は333km/h、0-100km/h加速は3.8秒で駆け抜ける瞬足の持ち主だが、人を蹴散らしたいという欲望とはまったくの無縁で、高速道路をゆるゆると流しているときでさえ深い満足感が味わえる。この辺は、たとえていえば新興貴族には難しい、代々続く名家だからこそ生み出せる品格というものかもしれない。
 
それにしても3代目に生まれ変わったフライングスパーのスタイリングは、実に魅力的だ。フロントグリルはメッシュ柄から太い垂直な棧が連なったデザインに改められるとともに、グリル自体の幅がぐっと広がり、強い存在感を主張している。ボディサイドに描かれたパワーラインとホーンチラインはあたかも一直線に連なっているかのようで、優雅さとともに力強さが表現されている。クリスタルグラスを思い起こさせるヘッドライトとリアコンビネーションのデザインも鮮やかだ。


 
インテリアの作り込みはさらに凝っている。3次元形状に加工したレザーをドアトリムとした3Dレザー、それにセンターコンソールの中心付近に埋め込まれた四角いベンチレーターなどは、フライングスパーよりひと先にフルモルチェンジを受けた3代目コンチネンタルGTでも見られなかった装備・装飾である。これらを見るだけでもベントレーのフライングスパーに対する力の入れ方がわかろうというものだ。

2種類のウッドを組み合わせたダッシュボード周り。新しいデザインのエアコン吹き出し口がシフトレバーのすぐ上に見える。

リアシートに施された新しいステッチのデザインはカセドラル・ウィンドウと呼ばれる。ダイヤモンド・ステッチよりさらに優雅だ。
 
メカニズム系も目覚ましい進歩を遂げた。エンジンはお馴染みのW型12気筒 6リッターターボだが、最高出力の+10psはともかくとして、最大トルクは実に100Nmも増えて900Nmとなった。それ以上に印象的なのがギアボックスで、従来の8段トルクコンバーター式から8段DCTへと一新。フルタイム4WDの前後トルク配分機構もこれまでのトルセン式から電子制御油圧多板式に改められ、走行状況に応じてトルク配分が可変できるようになった。そして前輪の位置が130mm前方に移動したことでフロントミドシップに近づき、より機敏なハンドリングが期待できるレイアウトとされている。

フライングスパーを333km / hまで加速させるW12エンジン。最新のコンチネンタルGTよりも吹き上がりが軽快に感じられた。


文:大谷達也 写真:ベントレーモーターズ、大谷達也(P133/S1コンチネンタル・フライングスパー) Words:Tatsuya OTANI  Photography:Bentley Motors, Tatsuya OTANI (133page/S1 Continental Flying Spur)

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