名家の品格│ベントレー新型フライングスパー試乗

Octane Japan 編集部｜ 2019.12.05

　
ちなみに新型フライングスパーのプラットフォームは、最新のポルシェ・パナメーラやベントレー・コンチネンタルGTと共通の＂MSB＂である。
　
試乗会のスタート地点はモナコの中心部にあるオテル・ド・パリ。走り始めてしばらくは、狭く曲がりくねったモンテカルロ市街の道を走るのに神経を磨り減らしたが、ほとんどUターンのように曲がる道でも切り返しをせずに済んだのは、おそらく4WSのおかげだろう。
　
その後のオートルートでは、ロードノイズも風切り音もほとんど聞こえない静寂のクルージングを楽しめた。合流区間での加速ではコンチネンタルGTをしのぐ軽快なエンジン・フィールを堪能。もっとも、フライングスパーのほうが車重が200kg ほど重くなっていることを考慮すれば、これは辻褄があわない。ギア比がよっぽど下げられたのか、この2年ほどの間にソフトウェアが目覚ましく改善されたかのどちらかだろう。
　

オートルートを降りてワインディングロードを目指す。最初は遅い車に阻まれてなかなかペースを上げられなかったが、ひとたび目の前が開けると、そこには、めくるめくようなひとときが待っていた。ターンインに伴うノーズの動きが正確かつ俊敏で、12気筒6リッターエンジンがフロントに搭載されていることがまるで信じられないほどだ。おかげで、コーナーをひとつかふたつクリアしただけで自信を持って操れるようになった。
　
それにしても、あくまでも一定のステアリング特性を保ち続けるこのハンドリングは、いったいどのようにして作られたものなのか。低速コーナーから高速コーナーまで、操舵量と車の回転半径の関係はずっと一定のまま。

しかも、どれほどプッシュしたつもりでも、タイヤからはスキール音のひとつも聞こえてこない。一度だけ、弱い下り傾斜の中速コーナーにオーバースピード気味に進入したとき、フロントタイヤの感触が薄れてアンダーステアの兆候を示したことがあったが、それ以外は徹頭徹尾、同じハンドリング特性を示し続けたのである。

「そんなハンドリングの車が楽しいのか？」という意見もあるかもしれないが、少なくとも私はフライングスパーという車の完成度を思い知らされるとともに、その高度なシャシー性能を心の底から楽しむことができた。
　
こうしたシャシー性能を支えるうえで大きな役割を果たしているのが4WSであるのは間違いのないところだ。一般には低速域での小回り性で注目を集めがちなメカニズムだが、少なくともシャシー・エンジニアにとっては高速コーナリングでリアタイヤのグリップ力を改善できることのほうが大きなメリットとして映るはず。これがリアのスタビリティを高め、安心感とファン・トゥ・ドライブを生み出す源となっているのだ。

B の文字をあしらったテールライト。ヘッドライト同様、クリスタルカット・グラスを思い起こさせる繊細な細工が施されている。
　
一台のモデルをベースにクーペとサルーンを生み出すと、クーペばかりが注目されるのがラグジュアリーカー界の原則との話を聞いたことある。実際、ビンテージカーになって価値が高まるのはクーペのほうで、それに比べるとサルーンは格安である場合が多いそうだ。
　
今回、ベントレーのエンジニアたちはこのジンクスに立ち向かったともいえる。つまり、部分的にコンチネンタルGTを上回る価値のサルーンを作り出すことにより、世の中の常識を打ち破ろうとしているように私には見えるのだ。100周年を迎えた今年、ベントレーは100 EXTRAORDINARY YEARS（ありきたりでない100年間）とのタグラインを打ち出している。言い換えれば、常識を打ち破ることこそがベントレーの歴史だったともいえるだろう。新型フライングスパーで、ベントレーはまたひとつ従来の常識を打ち破ったといえそうだ。

BENTLEY FLYING SPUR
ボディサイズ：5316×1978×1484 mm　ホイールベース: 3194 mm
車重: 2437 kg　駆動方式: 4WD　変速機: 8段 DCT　
エンジン:W 12 DOHC ツインターボ
排気量: 5950 cc( 84 . 0×89 . 5 mm)
最高出力: 635 ps/ 6000 rpm　最大トルク: 900 Nm/ 1350～4500 rpm

文：大谷達也　写真：ベントレーモーターズ、大谷達也（P133/S1コンチネンタル・フライングスパー） Words：Tatsuya OTANI　 Photography：Bentley Motors, Tatsuya OTANI (133page/S1 Continental Flying Spur)

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