自動車の歴史において欠かすことのできない存在であるフェルディナンド・ポルシェは、1875年9月3日、北ボヘミアのマッフェルスドルフ(現在のヴラティスラヴィツェ)にて誕生した。ブリキ職人のアントン・ポルシェとその妻アンナとの間に第三子として生まれた彼は、父と同じ道を歩んで職人になるはずだったそう。しかし、彼が興味を抱いていたのは、電気の分野だったのだ。
1893年、彼はウィーンへ赴き、電気エンジニアリングの会社 “Béla Egger & Co.(1896年以降は “Vereinigte Elektrizitäts-AG”)” で見習いとして働き始める。18歳のフェルディナンド・ポルシェは、自身が持つ無類の才能と確固とした労働倫理により、検査部門において急速に名を上げた。
そして、技術系大学の講義で理論的知識を広げると、その知識をすぐさま実践に活かす。成功を手にしたいという野心で、フェルディナンド・ポルシェは瞬く間に自身のキャリアを築き、わずか4年間のうちに、“検査部門” のリーダーと計画部門の第一助手を務めるまでになった。こうした中で、ウィーンで馬車の製造も行っていた。そして、独自の電気自動車を造りたいと考えていた人物であるルドウィッヒ・ローナーと出会う。
当時、“K.K. Hofwagenfabrik Jacob Lohner & Comp.”のオーナーは様々な事に関心を抱いており、彼の製造する豪華な馬車が販売低迷に直面していたことから、馬車の時代は終わりつつあると判断した。ヨーロッパと米国を旅する中で、ローナーは時代の変化を予測する力を養い、新たなビジネス領域で革新性を打ち出すことによって、こうした変化に立ち向かっていこうと考えるようになる。そして、ガソリンおよび電気で走る車両を造る必要があるという結論に達した。
ローナーが特に売れると見込んでいたのは電気自動車だった。騒音や排気臭が最も少ないことから、一般社会に受け入れられやすいためである。車両に搭載する電気系の装置は“Vereinigten Elektrizitäts-AG”から注文され、シャシーおよびボディは、ウィーンのポルツェランガッセにあるローナー所有の会社と、フロリズドルフにある生産拠点のそれぞれで造られた。
しかし、当時の技術ではおよそ2トンにも及ぶ車重でありながらもパワーは小さく、人々の生活の中に浸透することはなかった。
現在この1台は、ドイツ・シュトゥットガルト ツッフェンハウゼンにあるポルシェミュージアムに展示されている。常設展示物の中でも中心的な存在で、過去と現在の架け橋になっている。このC.2は、未来のポルシェ プロダクトにも影響をもたらしている。つまり、フェルディナンド・ポルシェが初めて設計したこの1台は、シュトゥットガルトに本拠を構えるポルシェにとっての遺産であるだけでなく、918スパイダーやタイカンといった革新的な車両コンセプトに刺激をもたらしているのだ。
オクタン編集部
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