パリのホテル ル・ムーリスにインスパイアされた音楽朗読劇|「女王がいた客室」再演

The Dorchester Collection

劇作家藤沢文翁が手掛けた音楽朗読劇「女王がいた客室」が2020年2月27日から3月6日に上演される。舞台設定は20世紀初頭のパリ、架空のホテル・バッサーノだが、劇中のロマノフ王朝の女王を迎えるホテルとしてインスピレーションの元になったのが、時代を超えて世界の王侯貴族や芸術家に愛されてきたホテル、ル・ムーリスだ。



ホテル ル・ムーリスは、パリ中心に位置する1835年創業の老舗ホテルで、パリの五つ星以上のホテルに与えられる「パラスホテル」の称号を保持する現代の宮殿ホテルである。

2世紀に渡り、ヴィクトリア女王からナポレオン3世、モンテネグロの国王、プリンス・オブ・ウェールズ、イギリス国王ジョージ6世、ザンジバールのスルタン、ジャイプールのマハラジャ、ロシアの大公妃が常連となる。



ロシア革命でロマノフ王朝が滅亡した1917年以降、ロシアから多くの亡命者を受け入れたパリは、「狂騒の20年時代」に突入。第一次世界大戦の痛みを忘れ、平和を謳歌しようと、パリ文化は華やぐ。芸術家や詩人、実業家などが集う社交場としてカフェ・ソサエティが流行り、亡命ロシア貴族によるファッションブランドも設立された。ロシアバレエ団は、エキゾチックな衣装と高い芸術性でパリジャンを魅了、ピカソやサティ、コクトーと交流する。ロシア人は、それまでのパリには存在しなかった感性で、才能を開花させ、狂騒の時代を彩ったという。ル・ムーリスにおいても晩餐会や舞踏会、演奏会や読書サロンが開催され、芸術家の社交場として、パトロンとアーティストを繋ぐ文化的な役割を担った。

ル・ムーリスでのサルバトーレ・ダリ(1974年)。


ピカソが結婚披露宴を開催したサロン・ポンパドール。

ル・ムーリスにはロシア人ゲストの様々なエピソードが残されている。19世紀末、リサイタルのためにパリを訪れたチャイコフスキーはピアノソナタ二番とジャンヌ・ダルクを描いたオペラ「オルレアンの少女」をホテルの一室で書き上げた。また、トルストイが滞在し、ピカソが妻オルガと結婚披露宴を開催したのも、ル・ム―リスだ。このようなアーティストにまつわる数々のエピソードが、音楽朗読劇『女王がいた客室』のインスピレーションの源になったのだという。


劇作家の藤沢文翁は、こうコメントを寄せている。
『パリは僕が青春を過ごした場所であり、いつ訪れても変わらないその歴史ある町並みには、僕の様々な思い出が焼き付いています。それは僕だけではなく、パリという街が、あるいはこのル・ムーリスが、様々な人々の思い出を優しく包み込む空間のように感じられます。変わりゆく世界で、変わらない場所があるということが、どれほどの安らぎを人々に与えることでしょう。新作を書くため、このル・ムーリスという変わらない空間を訪れた時、幼い頃、廊下を走って怒られる自分の面影に出会いました。たった一瞬ですが、あの㗃の悪戯な自分の心が蘇りました。老舗のホテルとは、本来そういうものなのかもしれません。宿泊する夜、今の自分とも向き合えますが、過去の自分とも対面できるのです。そんな時、思いついたのがこの物語です。ロシアの亡命貴族がたった一晩だけ、貴族に戻れるという、この物語を…。』


プレミア音楽朗読劇「VOICARION『女王がいた客室』」
2020年2月27日から3月6日
東京都 日比谷シアタークリエ
原作・脚本・演出:藤沢文翁
「女王がいた客室」
作曲・音楽監督:小杉紗代
出演:竹下景子 ほか
VOICARION公式サイト
https://www.tohostage.com/voicarion/2020voicarion/index.html

オクタン日本版編集部

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