完璧なるドライビングファン│ランボルギーニ・シルエットが持つ真の価値

Photography:Tim Andrew

この記事は貴重なクラシックランボルギーニをいざ走らせる!│そのドライビングフィールは?の続きです。

たしかにシルエットの場合、コクピットにいるドライバーよりも周りにいる人の方が、そのサウンドをよく楽しむことができると思う。そうなのだ。ドライバーは得てして、フェラーリほどではないにしろ素晴らしく音楽的でかつメカニカルなサウンドを一方的に提供する側でしかなく、さらにいえばロードカーというよりレーシングカーに近いミッドレンジ域のエグゾーストノートを奏でるような瞬間には、見物人でないとそのV8サウンドの全容を楽しむことなどできない。

 
排気量が比較的小さいため、このV8にスーパーカー級の加速を望むべくもない。けれどもそのおかげで、7000rpm(といってもレッドまでまだ500rpmの余裕があったが)までシフトアップせずに、エンジンフィールをじっくり楽しむことができる。急いでさえいなければ、十分なトルクフィールとともにすこぶる線形的なエンジンの回転落ちを味わうことだってできる。

かのメル・ニコルスは例のドライブストーリーに、交通量の少ないアウトストラーダを220km/h以上で、ときおり270近くまで出しながら長距離を走り切ったときの感想を、ロールス・ロイスのかの有名な言い回しを流用して、こう記した。『必要にして十分なグランドツアラーである』、と。
 
結局のところ、シルエットはGTのなかでも最もスポーティなキャラクターの持ち主であるというのが結論だ。操った感覚ではフェラーリ308というよりも、公道上でもっとワイルドかつ一体感のあるイタリアン&アメリカン・ハイブリッドのデ・トマゾ・パンテーラにもはや近かった。ノンアシストのステアリングフィールはシャープでかつ、すさまじくダイレクトだったし、乗り心地も308より硬く、しなやかさに欠けていた。その結果、路面のすべての凹凸を拾って、まるで電信機のようにステアリングホイールを通じてドライバーへと伝えてしまう。

ときおり発する明確なスカットルシェイクが、最近のテストドライバーを信頼しきていない証、というか、日がな液体カロリ食を手放せない40代のなまっちょろいジャーナリストのことなど歯牙にもかけないといった風情でもあった。
 
視界がしばしば揺れることよりもいっそう厄介だったのは、幅広いBピラーとリアガラスの反射で右後方に死角ができてしまい、幹線道路への合流などでほとんど何も確認できないことだ。そして、もうひとつ気になったのは、左側のホイールアーチがドライバーの足元空間を狭めてしまっていることだった。自分の靴(英国サイズで12)がファイアウォールの下で干渉しないようにするためには、それを脱ぎ捨ててクラッチ操作するほかなかった。まったくもって、格好が悪い。


 
もっとも、ゴールドのホイールを履いたカッパーオレンジ・メタリックの素晴らしいシルエットをドライブするチャンスに恵まれたことに比べたら、そんなことなどまったくもって些事でしかない。
 
当時、ランボルギーニ社はカリフォルニア市場における輸入車のエミッション規制に対応できず、米国での販売が大打撃を被った。結局、シルエットのアメリカ仕様はわずか10台が生産されたに留まる。けれどもイスレロなどと同様に、ごく少数のマニアックなランボルギーニファンが愛した忘れられたモデルたちは今度、クラシックモデルとして脚光を浴びることになるのではないか。市場で見つけることが難しく、それゆえ相場はあってないようなものだが、リチャード・ヘッドは、「おそらくフェラーリ308GTBのファイバーボディ(ヴェトロレジナ)と同じくらいの価値ではないか」と言っていた。

あちらはもう少し生産台数も多いし、屋根も取れたりしないので、シルエットのほうがお買い得な気もする。さしずめ13万ポンドから15万ポンドあたりというところだろうか。
 
それでもまだ疑いの目で見る向きに、最後にもういちど『Car』に掲載されたメル・ニコルズのドライブストーリーの一部を引用させていただこうじゃないか。「モンブランが眼前に広がっていた。夕陽はすでに低く、あっという間に沈みそうな勢いで、空気は冷たさを増している。めいっぱい効かせたヒーターが足元から胸元にかけて暖めてくれてはいるけれど、顔は凍りつきそうなくらい寒い。それでも、素晴らしい夜だった。シルエットは山道を速く、軽々と駆けあがって行く。ピレリタイヤがこれほどよくグリップするとは思ってもみなかった。リアルスポーツカーをひとりで駆る楽しみ。否、それはスポーツカー以上のものだった。迫り来るコーナーを平らげ、のろのろと進むトラックの隊列を後方へと葬り去るパワーに満ち満ちている。完璧なるドライビングファンというものを私はいったいどのくらいの間、楽しんだことだろう⋯」
 
完璧なるドライビングファンというものに、貴方ならいったいいくらの値付けをするだろうか?

編集翻訳:西川 淳 Transcreation:Jun NISHIKAWA Words:Mark Dixon Photography:Tim Andrew

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