フランスでのお正月│アレックス・サンジェでパリをゆったりとサイクリング

Photography: Tomonari SAKURAI

新年あけましておめでとうございます。今年もフランスを中心に、ヨーロッパのちょっとしたお話しをしていきます。

毎年フランスで年を越す時は、このイベントで新年といった感じになるイベントをご紹介。先日もお伝えした老舗自転車屋さん、1938年に創業のアレックス・サンジェ。今でも昔と変わらずオーダーメイドの自転車を作り続けているブランドだ。先代の親方、エルネスト・スユーカ氏の追悼と新年を祝うと言うことで、1月の第一日曜日に"balade d’Ernest”(バラード・エルネスト)と題してパリをゆっくりとサイクリングする。

先代が亡くなったのは2009年の12月22日。1966年、アレックス・サンジェ氏の他界により受け継いだこのアトリエを引き継ぎ、40年以上の自転車を作り続けてきた。エルネストの作ってきた自転車を愛するオーナーや、サンジェの愛好家たちがエルネストを想いながら走るパリ。多くが高齢化していることもあり、普段は郊外に100kmほど走る弾丸サイクリングだが、この日だけはパリをゆっくりとみんなで走るのだ。


フランスの国会議事堂のブルボン宮殿。日本なら炎上しそうなほど車道を占拠中。フランスでは自転車も車両という認識がしっかりしているし軽車両で優先される乗り物。後 ろの車がイライラしてたとしても何も出来ない。

朝9時にルヴァロワのブティックを出発してポルト・マイヨールを経由し、トロカデロとパリの西側から周っていく。経由地から参加してくる人も多く、どんどんと増えていく。2019年、炎に包まれたノートルダム寺院からパリが一望できる20区のベルヴィル公園など通った。前回紹介した電動アシスト自転車も2台がテストで参加。平らな道ではアシストを切って一般の自転車同様に走り、上り坂はちょうどギアを変えるようにアシストをオンにする。そんな使い方で走るとサンジェの自転車を楽しむことができるし、ここで参加した体力が落ちてきた年配のサイクリストも気軽に自転車を乗り続けることが出来る。それもサンジェでだ。そんな可能性を見ることが出来た。


工事のために囲んだフェンスには燃えた時の様子から修復までを写真やイラ スト入りで紹介している。見上げると、足場が組まれ、支えを付けられている屋根。


ブティックに戻るとシャンパンの乾杯と、牡蠣が待ち構えていた。そしてやはり最後はガレット・デ・ロワ。本当は1月6日の公現祭に食べるものだが、今では年明けからしばらくはほとんどこれを食べる習慣になっている。このフランジパーヌをパイで包んだの中にフェーヴと呼ばれる陶製のフィギュアが隠されている。このフェーヴが入っていたら”アタリ”で王様になれる。大抵ガレットには紙の王冠がおまけについているのだ。子供がいる家庭なら、ひとりが机の下に潜ってガレットが見えない状態で、切り分けたガレットを誰に渡すか指名していく。


ガレットの登場。

元々は聖書の中の東方の三博士が王の謁見を願ったときに一人ずつしか会わないというので、誰が最初に謁見するか、それを決めるためにこのガレットを焼いた。当時はフェーヴでは無く歯を入れた。その刃を当てた人が最初に謁見する、なんて話しもきく。そのフェーヴ、今ではコレクションの対象で映画のキャラだったり、車だったりもして、モノによってはオークションサイトで高値で取引されている。
 
そんなちょっとした新年会をサンジェのアトリエでしているなか、僕がサン・ジェルマン・アン・レイに引っ越したことが話題になった。このサン・ジェルマン・アン・レイに長く仕事で通ったという一人が「あそこは世界で初めて、車で100km/hを超えた記録があるんだ」という情報をもらった。なんと近所にそんなところがあったのだ。勉強不足を痛感した。実際は僕の住む街ではなくそこにあるサン・ジェルマン・アン・レイの森に隣接する道路で、1899年4月29日に世界で初めて公式に車で100km/hを超えた記録が作られたというわけだった。それもなんと燃料エンジンではなく電気自動車なのだ。その車の名は”La Jamais contente”(決して幸せではない、決して満足しないの意味)。ベルギー製の車両でアルミニウム、タングステン、マグネシウムという素材でボディを使って軽量化とロケットのような空気抵抗を計算した車だ。ちなみにタイヤはミシュランタイヤ。この車はレトロモービルなどでもちょくちょく展示されるので何度もカメラに収めていたのだがそれが記録を作ったのがそんな近所だったとは…


サン・ジェルマン・アン・レイの森の北にあるアシエールという街の図書 館の壁に飾られた世界で最初に100km/hの記録を伝えるプレートがある。
 
ということで、新年恒例のサイクリングで電動アシスト自転車を堪能したあとに、すでに100年以上も前に電気自動車で記録を作っていた話を聞かされた。先駆者が天から微笑みを投げかけてきたような気がしたのだった。

オクタン日本版編集部

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